白川静様

白川静

拝啓
「風の旅人」Vol.13 生命系〜30億年の時空〜 の為にご執筆いただいた「自然という語」、早速拝読させていただきました。

 自然とは文字の通り“おのづから然るもの”。
 視れども見えず、聴けども聞こえない、微妙なる消息。その消息は、うかがうべからざるも、真に存在するものの自己運動であり、人は、その自己運動を尊重し、妨げてはならぬ。

 2004年の締めくくりに白川先生の原稿を読み、2005年に向けての心の構えを定めることができました。有り難うございます。
 2004年は「五黄土星」、すなわち“土”の年であり、万物を育み成長させる反面、地震や地滑り等の戦慄すべき事態を発生させるという善悪二面性のある強烈な作用のある年なのに対し、2005年は「四録木星」樹と風の年で、風は物に従い万物を遠くまで吹きあおり、そして停滞している陰気を吹き散らすので、そこに万物の発生があり成長がある。「四録木星」には、活動、伸長、成長、信用という意味がある。だから、2005年は『風の旅人』の旋風が吹き荒れるであろうと、『風の旅人』の読者から有り難いメッセージをいただきました。
 それはともかく、2年前の創刊準備の頃、白川先生の著作集の第六巻『神話と思想』の装丁で用いられている“風”の古代文字を見た時、この文字を「風の旅人」のスピリットにしようと思いました。あの”風”の文字には、自由自在で、それでいて理にかなった自己運動を感じます。それこそが“自然”、それこそが“東洋の原風景”、そういう思いで私は『風の旅人』を制作してまいりました。
 私にとって“東洋”というのは、単にアジアに関心をもつことを意味するのではなく、あの“風”の古代文字のように自由自在で理にかなった自己運動によって、今日わたしたちが生きている世界全体と付き合っていくということです。
 『風の旅人』は、2005年の2月号から「自然と人間のあいだ」というテーマで何回か特集を組みます。2月号は「混沌からかたちへ」、4月号は「生命系〜30億年の時空〜」、6月号は「回帰する時間〜生死を超えるもの〜」、8月号は「生きている自然 生きていく人間」です。
 2005年8月号で『風の旅人』は15回になります。創刊号の「天空の下」からはじまり、「水の惑星」、「森の記憶」、「石の永遠」、「都市という新しい自然」、「生命の星」、「母なる大地」、「生物の領域」、「人間の領域」、「水、風、土と生活」、「文明と荒野」と続けてきて、次号からの「自然と人間のあいだ」という四回の特集は、これまでの集大成であり、一つの節目です。そして、この4回で締めくくる15回が、未来に向けての基礎固めであると思っています。基礎がしっかりとしていないと、そのうえに家を組み立てても、良いものになっていきません。がっしりとした基礎固めのためには、白川静先生や河合雅雄先生をはじめ、神々しいまでの方々のお力添えをいただくしかないと思い、匹夫の蛮勇で執筆をお願いしてまいりました。
 今日のように有象無象の情報が氾濫する時代において、時代の価値観に揺さぶりをかける為には、中途半端なことを行っても、その渦に呑み込まれてしまいます。やるかぎりは、高圧力、高出力で走り出すしかありません。
 白川先生には、創刊の時から無理を言ってご執筆をお願いしてきました。お忙しいところ誠に申しわけございませんが、「自然と人間のあいだ」の特集を完結させるVol.15の8月号までお付き合い頂けることを願っております。
 今日も東京には雪が降っています。めっきりと寒くなりましたが、くれぐれもお身体ご慈愛のうえお過ごしいただきますよう心よりお祈り申し上げます。白川先生の深遠なる自己運動の力を魂で感じながら精進してまいります。2005年が、白川先生にとりましても、私たちにとりましても、今日の世界にとりましても、良き年になることを祈っております。
                                                 敬具 
                                   風の旅人 編集長 佐伯剛