第907回 電気料金の値上げと、構造的問題

 関西電力から、電気料金の値上げの案内が届いた。
原子力プラントの再稼働の遅延にともなう火力燃料等の著しい増加により、電気料金の値上げを国に申請し、審査を受けてまいりましたが、このたび認可され」と書いてある。
 そして、弊社は、今後も引き続き、安全性が確認された原子力プラントの一日も早い再稼働を実現し、電気料金の値下げを行うとともに、最大の使命である電力の安全・安定供給に全力を尽くしてまいります。」と結んでいる。そして、なんと平均値上げ率は、8.36%。
 原発再稼働か電気料記の値上げか二つに一つと迫る日本の電力会社のスタンス。電力会社の経営者の傲慢さは当然として、電力会社の社員の人たちは、このことをいったいどのように考えているのだろうか。そして、どのような努力をしているのだろうか。経営の効率化によって自分たちの給与が下がるかもしれないとか、リストラされるかもしれないと臆病になっているだけなのだろうか。

 今日、古賀茂明さんの記事を読んでいたら、http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43420

 エネルギーに関する日本の取り組みに対して、暗澹たる気持ちになってくる。
 急速に変わりつつある世界のエネルギー事情の変化と、その取り組みをみると、原発再稼働か電気代値上げかと二者択一を迫る日本の状況に、仕方が無いなどと言ってられない。
 地下資源が少ない日本にとって、この変化はチャンスでもあるはずなのに、なぜ、そのチャンスをものにするような取り組みができないのか。
 古賀さんの記事によると、日本の2030年の電源構成に関する政府案が間もなく決まるが、原発比率は20〜22%、再生可能エネルギーは22〜24%らしい。  2011年の福島原発事故から20年後ですら、原子力に対して20%も依存することを前提にしている。そして、そのことを立派な前進だとみなしている。
 しかし、古賀さんによれば、
 「'14年上半期の各国の総発電量に占める自然エネによる発電量の割合は、ドイツ30%、英国18%、スペイン50%、イタリア40%、フランス20%、デンマークは風力だけで41%。
 不安定で大量導入はできないとされる太陽光と風力だけで見ても、'13年時点でさえ主要な欧州諸国は軒並み10%超。スペイン、ポルトガルは20%、デンマークは30%を超えている。ドイツの風力発電の容量は、'14年末に3823万kW、つまり、原発38基分だ。  ドイツは、自然エネ比率を2030年に50%、'50年には80%にする計画。英国でさえ、5年後の2020年の目標が31%だ。こうした動きは先進国だけではない。'14年に中国で新たに導入された水力、風力および太陽光発電の容量は5200万kWにものぼる。原発52基分だ。風力だけでも1年で1400万kW、原発14基分建設されたという。もちろん、この建設のスピードは原発建設の何倍も速い。
  一方、日本の2030年の計画は、太陽光と風力合計でわずか9%弱にとどまる。地熱、水力、バイオマスで最大15%程度を確保するものの、'13年度に約11%だった自然エネルギーの割合を2030年まで15年かけて、やっと2割程度まで引き上げるだけだ。これは、欧州の数年前のレベル。しかも、中国よりはるかに遅れた計画だ。 そういう試算になってしまう理由として、自然エネは「高い」から、増やすと経済に悪影響があるという前提がある。しかし、実際には、風力発電は世界中でコストが下がり、石炭火力よりも安いのが常識。自然エネ先進国では、太陽光発電も火力より安くなる国が増えている。
  また、天候に左右されて不安定な太陽光と風力は5%から10%までが限界だという「神話」が日本だけには残っている。20年前に欧米で崩壊した神話をまだ信じているのだ。」(太文字は、 『週刊現代』2015年5月30日号の古賀茂明さんの原稿)
 日本の電力会社および原子力ムラの住人は、自然エネルギーは不安定で、原子力エネルギーの方が安定供給に向いていると言い続けているが、先日、テスラモーターズが発表したように、蓄電池の技術開発と低コスト化が急速に進んでいるという世界的な現実もある。http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK01H6T_R00C15A5000000/
 日本人は、政府や電力会社、そして政府や電力会社に媚びたメディアから流れてくる情報だけを鵜呑みにして、「原発再稼働や、電気料金の値上げも仕方ない」などと言っている人が多い。
 謙虚で控えめという日本人の性質が、ものわかりの良さとなり、それはある種の美徳でもあるが、知らず知らず、古い構造の中にがんじがらめとなり、その古い構造を守るために無自覚に協力してしまっていて、さらにその無自覚な協力が、今後、この国を危険な方向に推し進める力になってしまわないとは限らない。
 誰しも、自分が生まれ育った国を愛してはいるものの、それでも、この国はちょっとおかしいことになっていると、冷静に見ながら警戒し、自分で判断し、行動することは、とても必要なことだろうと思う。他人依存は、究極、自分を守るための体制依存につながり、その自己保身の集団がどんなに悲惨な結果を起こそうとも、「あの時、自分は騙されていたから・・・、自分なんかが何を言ったところで・・・」と、いつものお人好しの卑怯な自己正当化が繰り返されることになる。

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