第936回 歳月の中で積み重ねられてきたもの

 写真家が、何十年もかけて撮り続けてきた写真の作品集を、数年に1度ずつくらいの頻度で発行したいと考えています。
 デジタルコンテンツ全盛の時代、簡便な方法で作ってすぐに消費される情報ではなく、歳月の中で積み重ねられてきたものから滲み出る何かに、真実が垣間見えるのではないかと思うからです。
 風の旅人編集部として発行する写真集の2冊目は、国際的も名の知られた鬼海弘雄さんが40年にわたって撮り続けてきた街の写真です。
 東京が舞台になってはいますが、これらの写真は東京の移り変わる風俗ではなく、人間の普遍的な営みの何かが写っています。


 1970年代の前半つまり高度経済成長が陰りを見せ始めた頃からバブルの時代、そして今も続く失われた20年、30年という時間の流れのなかで、世の中の表層は大きく変わろうとも決して変わらない人間の本質が、これらの写真から感じられるからです。人間は決して合理的な存在ではなく、だからこそ愛すべき存在だと、現代社会の中で私たちが見失っている視点を、鬼海さんの写真は蘇らせます。
 そのことは鬼海さん自身が自分の人生を通して証明してきたからこそ、揺るぎないものとして写真に反映されているのでしょう。
 40年も長きにわたって鬼海さんが飽きることなく撮り続けてきたテーマですから、見る人も、数十年のあいだ、何度も見続けても、そのたびに新鮮な何かを感じることでしょう。だからこそ、このたびの写真集の装幀はハードカバーで、鬼海さんがこれまで制作してきた写真集の中でもっとも大きなサイズにしました。
 縦365mm×横297mm×幅16mm。120点掲載されている一枚一枚の写真の魅力を、プリント作品を鑑賞するように味わえます。800部限定です。
 写真の選択、構成、レイアウトに1年くらいかけ、印刷の為の写真の分解、製版にも1年ほどかかりました。写真プリントと印刷は別物という妥協が許されないからです。また白と黒のコントラストの強さで表現する写真の場合は、粗があってもごまかせますが、鬼海さんの写真はそうではなく、白と黒のあいだのグレーの階調の繊細さが命ゆえに、写真集の制作もきめ細かな仕事が求められます。
 3月末には発行できる目処が立ち、現在、正式のお申し込みを承らせていただいております。
 下記のホームページの内容をご確認のうえ、お申し込みいただければ幸いです。(書店での販売はございません)

 鬼海弘雄最新写真集「TOKYO VIEW 東京模様」 お申し込みページ→
 
 また、この超大型写真集の発行を記念して、写真集のご購入者に限定で、鬼海さんのオリジナルプリントを特別価格で販売致しますが、まずは、写真集の内容をご覧いただき、あらためてご注文いただくということになります。
 デジタルプリントではなく、手焼きのオリジナルプリントとなるため、オリジナルプリントは、お手元に届くのが先となります。