広告/宣伝/広報/PRの硬直したパターン

「自分を相手に売り込むことに必死で、売りこむために、その相手のことは、かいつまんで理解する。それが当たり前の、相手を理解する方法だと思っている。

 かいつまんで理解するくらいならまだましで、「キーワード」が相手と一致していたら、

とりあえずアプローチしておく。

 相手が自分にメリットありそうな場合は腰が低くなるけれど、そうでないとわかった途端、誠意のかけらもみせない。そもそも誠意というものが何なのか、ピンとこない。

 自分に都合よく相手を丸め込むことが、仕事の成果だと思っている。

 そもそも対話をするという発想がない。自分に都合がよかったり、自分に都合が悪くないことは答えるけれど、相手の問いに正面から向き合うことはない。」

 広告/広報/PRを本職にしているかどうかは別として、上に述べたような行動特性と思考特性の人が多くいる。本職の人も、上に述べたようなスタンスで何も問題ないと思っている人が多い。

 広告・宣伝・広報・PRというのは、そもそも自分を良く見せていくための手段である筈なのに、上に述べたようなスタンスだと逆効果になってしまうということに気付いていない人が多いが、いったいなぜなんだろう。

 「アピールする」ことが、大きな声で目立つように人の関心を引いたり自慢できることだけを伝えることだとする習慣が、知らず知らず人間の感覚を麻痺させてしまっているのだろうか。

 大きな字で「牛肉コロッケ」と表記するのは、コロッケそのものの味に関係なく、「牛肉」という記号で人を引っかけるということだ。「豚肉」でも美味しければそれで充分なのに、「牛肉」という記号を使うことで、メリット感を出す。馬鹿げているのだけど、そういう商売方法が通用してしてしまう。

 最近、企業の不祥事で、企業の広報が答える場面がメディアなどで伝えられるが、どの担当者も、あまりにもステレオタイプで、「現在調査中です」として答えない。自分の言葉(その企業ならではの言葉)がどこにもない。

 「他社との差別化」が企業競争の要なのに、広報においては、それがまったくない。無難に答えたいと思うのかもしれないが、商品開発においては無難な物だと通用しないことがわかっているのに、広報においては、それでいいとしている。

 私は商品開発も営業も広報も、その企業のスタンスを表すもので同じでなければならないと思う。「現在調査中」としか言えない企業は、商品販売や企画を出す段階においても、「その場凌ぎ」ということなんだろう。

 「風の旅人」など雑誌媒体を持っていると、雑誌誌面で無料で紹介してもらうことを狙って、企業や団体の広報担当者がアプローチしてくることが多い。

 手紙とかを送ってくる場合はまだマシだが、電話で、一方的に自分たちの行っていることがいかに素晴らしいかを喋った後、「もしよろしければ資料をお送りします」と言う。

 自分たちのことばかり喋るので、「風の旅人」がどういう作り方をしているのか見たことがあるのかと問うと、「ホームページで確認しました。」と答える。「ホームページで何がわかるんですか」と私が問い、ハッとして面目ないという雰囲気になる敏感さがあればまだいいのだが、「ホームページを見て私が思ったのは・・・・」とダラダラと喋ろうとする。相手に対する敬意とか、思いなどはまったく感じられない。馬鹿だなあと思う。思うだけではなく、「馬鹿じゃないのか」と私は口に出してしまう。仕事中に突然電話してきて、それはないだろうと不愉快極まりないのだ。

 自分を売り込むのに、その場凌ぎの対応しかできていないから、けっきょく売り込みは不発に終わる。やはり馬鹿だなあと思う。

 また、最近、大企業が「風の旅人」に興味をもってくれて、大手広告代理店を通して問い合わせをしてくることがある。大企業の一担当者は、直接、我ら弱小出版社に声を掛けない。わけのわからない無名の会社に連絡をして事を進めると、責任の所在が問題になるのだろう。

 それで、その企業を担当する大手広告代理店の一担当者に、資料などを送らせるように指示をするのだ。

 大手広告代理店の一担当者が連絡してきて、媒体資料と見本誌を送れと指示をしてくる。こちらに媒体資料などないから、見本誌とともに手紙を書いて送る。手紙では、「風の旅人」には、企業が作った一般広告は載せる気持ちはなく、こちらが誌面を制作するという条件でタイアップ記事なら可能だという旨と、なぜするのかを説明する。

 それに対して、返事をしてきた広告代理店の担当者はこれまで一人もいない。見本誌が届きましたという連絡すら、電話でもメールでも無いのだ。

 その理由は、おそらく私の手紙が彼らにとって面倒臭いからだ。彼らは、大企業のスポンサーに対して、「風の旅人は広告は載せないそうです」と、はしょって報告している。 「風の旅人」に関心を持ってくれた大企業の宣伝部長や広報部長とは、写真家のパーティなどで写真家に紹介してもらって直接会って話しをして知り合ったケースもあり、彼らが部下に伝えて、部下から広告代理店の担当者に指示が出ているのに、広告代理店の担当者はそのいきさつを知らず、事務的に不誠実に対応して、後でそれがバレルということがある。

 どうでもいいけれど、くだらないなあと思う。その場凌ぎで仕事をしているのだろうなあと思う。

 企業の不祥事などにおいて、最終的には社長の責任が問われる。それは当たり前だ。しかし、その場凌ぎで仕事をすることが積み重なって、大きな問題になることの方が多いのではないだろうか。現代社会の様々な不祥事は、悪人が悪意を持って悪事を行っているわけではなく、その場をやり過ごすことを積み重ねているうちに、後戻りできないところにいってしまうのではないか。

 牛肉コロッケの不祥事の問題にしても、「社長の指示だから」と言う。社長に反発したら職を失うので、それを恐れるということもあるかもしれないけれど、「矜持」というものがあれば、「ハイソウデスカ」とはならないと思う。

 また、どの企業でもそうだが、不祥事の際に、広報担当者に「矜持」があれば、「現在、調査中です」とステレオタイプで答えないと思う。その場凌ぎでやり過ごす自分の惨めさとか情けなさを、どれだけ自分ごととして引き受けるか。

 自分の矜持を放棄して得られるものに、いったいどれだけの価値があるのだろう。


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