既存メディアに寄りかからないコミュニケーション

  今朝、上智大学に行き、相談を受けた。

 カンボジアアンコールワット遺跡の地中から出てきた膨大な数の仏像のことだ。

 http://www.afpbb.com/article/life-culture/culture-arts/2238698/1688217


仏像は日本率いる調査団が2001年にアンコールワット(Angkor Wat)から約6キロの地点で発見した。調査団長の石澤良昭(Yoshiaki Ishizawa)・上智大学長によると、カンボジア前国王の名を取ってノロドム・シアヌーク(Preah Norodom Sihanouk)博物館と名付けられた2階建の新しい博物館で、11月から展示される。

 石澤氏は 「仏像展示により、博物館がアンコールワットに欠けているものを補う存在になってくれればと思います」と話す。

 仏像は11世紀から13世紀にかけて作られたもので、中には高さ1.2メートルのものもある。寺院が崩壊し地中に埋まっていたと見られ、発掘の際は、「カンボジア人のメンバーはちょっと感情が高ぶり、興奮で手が震えていました」と石澤氏は振り返る。

 博物館はアンコールワットから約1キロの場所にあり、展示フロアは1820平方メートル。カンボジアに寄贈され、同国で運営に当たる。「大切なのは、カンボジアの人たちがこのような国家財産を自分たちの手で保全し、自国の文化遺産として誇りにすることです」と石沢氏。いずれ増設して図書館を設置し、カンボジア研究者のための奨学金も創設したい意向だという。

 博物館は、大手スーパー、イオン(Aeon)からの1億3000万円の寄付によって実現した。(c)AFP

 博物館のオープンを記念して、2007年12月に上智大学が中心となってシンポジウムを開くのだが、このことを多くの人に知っていただくために、発掘チームが某新聞社に相談にいった。すると、新聞での紹介やシンポジウムに新聞社が協賛する場合、2500万円〜3000万円を新聞社に支払わなければならないという話しになって、そんな大金がある筈がないということで、私のところに相談が来た。

 実は5年前、この仏像が発見されたばかりの時、シンポジウムを行い、新聞で紹介するという話しになったのだが、その時も新聞社から大金を要求されて、あるきっかけで私が相談を受け、あの手この手の方法で何とかシンポジウムの開催と新聞での紹介にこぎつけたことがあったのだ。

 あれから5年経って、ブロードバンド化が急速に進んでいるが、新聞社の体質はまったく変わっていない。自分たちの看板にあぐらをかいて、新聞で紹介して欲しければ金を出せというスタンスだ。しかも、信じられないほどの大金を。5年前の新聞での紹介にしても、記事の内容も写真も大したことがなく、何千万円もの価値はまったく感じられない。新聞を読む人は、新聞社が良心によって”文化”を伝えていると信じこまされているが、実際はそうではなく、彼らは大金を要求している。”企業協賛”というのは、一般の認識では協賛する側がお金を出すのだが、彼らは、”協賛”をブランドの暖簾代のように考えていて、お金を要求する。そもそも、新聞という知的権威と名声(実状はまったくそうでないと思うが)にすがりついて、みすみすお金を払う人が多く、その習慣が長く続いてきたことが問題なのだろう。もはやそういう時代ではない。新聞に出ること=素晴らしいこと、という構図は崩れてきている。新聞に出ていることだけで安心しても仕方が無く、そこに書かれている内容が大事なのだ。記事にしても、写真にしても、新聞を通して目が開かれるような経験は、私はまったくといっていいほど無い。

 だから、今回の相談を受けた際、新聞にたった一日掲載されるだけで数千万円も支払う馬鹿らしさを述べた。現地の博物館をつくるためにイオンが寄付した金額が1億3000万円で、その貴重なお金をなにゆえに新聞社に横取りされなければならないのか。寄付する企業もあるのに、新聞社は無償で紹介するどころか、お金を要求する。新聞は企業の問題をあれこれ好きなように書くけれど、現在社会において、人に知られないところで恐ろしく横暴なのは、新聞社なのではないかと思ったりする。

 インターネットの急速な普及で様々な問題も生じているけれど、それ以上に、新聞社など既得権益組の厚顔無恥なスタンスに憤りを感じる。

 私が制作する「風の旅人」は、制作代と経費、25,000部ほどの印刷代も含めて、1冊につき1000円ほどのコストがかかる。それを実売とタイアップなどによって、なんとか収支トントンで続けている。

 それに比べて新聞は、文化紹介という装いながら、写真も情報も相手に用意させて、たった一頁のスペース売りで2500万円〜3000万円を要求する。

 今回、アンコールワットから日本の発掘チームが大量の仏像を発見したことは、色々な意味でとても重要なことなのだ。商品販売を目的とした企業広告ではないのだから、お金を取って誌面で紹介するような内容ではないと思う。

 5年前のように新聞社との間に入ることは、あまりにも馬鹿らしいので、今回は、自分が作っている「風の旅人」の誌面できっちりと紹介し(もちろん無償で)、書店流通以外の分から1000部ほど進呈し、シンポジウムで活用してもらうことを提案した。

 新聞は、大勢の社員を抱えているし、インターネットの普及で広告収入もどんどん減少するという逆風のなかにあるから、文化紹介であれ何であれ、お金になることを優先するのだろうが、そのようにしてスピリットを失っていく。スピリットを失った媒体は、一歩間違えば簡単に権力の手先になる可能性もある。すでに媒体そのものが権力化して、自分たちの流儀を強引に押しつけている。

 新聞を敵にまわして何も得することがないという判断で、こうした問題があっても、当事者たちは仲間内で新聞社の悪口を言っても、外に向けては黙っていることが多い。新聞に攻撃されるのも、無視されるのも厭だ、仲良くしておきたい、という心理がどこかに働いてしまうのだ。何かの時に取り上げてもらえるかもしれないし・・・というセコイ気持ちで。テレビにしても同じで、以前、国東半島の祭りの時のテレビ局の横暴を書いたけれど、メディアの権威の前にへりくだってしまう私たちの心理に新聞やテレビはつけ込んでいる。

 そうした状態から脱するために、既存メディアに寄りかからない方法を自分なりに構築していく努力が大事なのだろうと思う。

◎「風の旅人」のオンラインショップを開設しました。定期購読、バックナンバー、最新号の購入が、コンビニ支払いでできます。「ユーラシアの風景」(日野啓三著)も購入可能です。

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