ちょっとおっかないけれど、昨日のエントリーの続き

 昨日のエントリーを、もう少し詳しく説明したい。

 5年前の時は、数ヶ月前から、その新聞社がシンポジウムの開催と新聞での紹介を約束していたが、その経費を誰が負担するかという話しにはなっていなかった。

 しかし、新聞社が”文化”の紹介を引き受けてくれると言えば、一般の人は、新聞社側の志によって、無償でそれを行ってくれるものと思う。だから、発掘チームも安心していた。

 にもかかわらず、一ヶ月ほど前になって、新聞社側から、「シンポジウムのスポンサーが見つからないので、スポンサーを見つけてきなさい、スポンサーが見つからなければ、シンポジウムは行わない。もしくは、その金額を負担して欲しい」と言ってきたのだった。

 そして、今回は、最初からお金を要求してきた。

 私が想像するに、昔は、こうしたシンポジウムを新聞社の冠で行う時は、新聞社が”文化”を口実に様々な企業に協賛させて、イベントの運営費をまかなうとともに、自分たちの利益も十分に稼ぎ出せていたのだろう。もしかしたら、5年前も、そういうつもりだったのかもしれない。だから、最初はシンポジウムの開催を快く引き受けた。でも、不況だったので、スポンサーが集まらなかった。そうした状況で、新聞社は自分たちがお金を持ち出してまでシンポジウムを行う意志はなかったのだ。

 それで、5年前は、私の会社が広告紙面を買いとり、同じページに、アンコールワットの仏像大発見を紹介した。そして、シンポジウムに関しては、私がその種のイベントを数多く運営した経験があったので、自分が運営するつもりで新聞社の担当者と話し合った。最終的に、新聞社も損をせず、顔もつぶれないという線で、妥協点が見出されたのだ。

 そして5年が経った。おそらく、こうしたシンポジウムで新聞社の冠の下に協賛企業を集めて、新聞社は莫大な利益を得て、協賛企業は名前を売り、学界などは新聞社お墨付きのシンポジウムを無償で行い、かつ新聞社の宣伝力で集客することができるという三者にメリットのあるビジネスモデルが、もはや成り立たなくなってしまったのだろう。

 一番の原因は、企業がシビアになったことだ。すぐに販売に結びつかないプロモーションに、お金をあまり使わなくなった。また、新聞社の冠だからといって、宣伝効果があるとは限らなくなった。まったく無いということはないが、対費用効果として、他にいい手段が出てきた。2500万円も使えば、いろいろな展開が可能になるのだから・・・。

 しかし、大新聞社などの既得権組は、その収入によって、大勢の社員を高給与で養っている。既得権が強ければ強いほど、それに依存する体質になり、他の方法で収入を得るための思考や行動ができなくなる。時代の変化に合わせて、5年前に2500万円だった掲載料を1000万円にするわけにはいかない。社員の年収を1500万円から700万円に下げるとパニックが起きる。いずれにしろ、厳しい状況なのだろうなと思う。

 この件に関しては、私は恐れるものは何もないと思っているのだが(とはいえ、目をつけられるのは厭だなあというのが正直な気持ちだ)、大学の方は、やはり公の立場として、メディアと軋轢が生じるような事態は絶対に避けたい気持ちだろうと思う。だから、某新聞社という書き方にしているのだが、私も含めて、こうした心理じたいが、権威を前にした弱さであり、こうした積み重ねが、未来の人々から見た時に、「あの時、何であんな馬鹿なことをしたのだろう」と言われる事態を引き起こすのではないかと思ったりする。

 そして、なぜかインテリの人は、この某新聞社に出ることに今もって価値を感じてしまっている。他の新聞ではダメで、この某新聞社でなければという心理がある。ほんとうに不思議なことだけども、この新聞社が、そうしたインテリ好みの知的権威(ブランド)を作りあげていることは歴然とした事実なのだ。その実態を知っている人でも、ブランド力があるかぎり、そこにおもねってしまう。心の中ではくだらないと思っていても、当面の態度としてはそれを出さず、ご立派ですなあと言う。心の動きは表に出ず、目に見えて現れるのは一人一人の態度だから、その積み重ねによって、ブランド力が落ちない。

 そして、「教科書」や、それに従属する「先生」など多くの知的情報媒介者は、自らの見識よりも、知的ブランドの引用を優先する。そのようにして、一度ついた知的ブランドは、どんどんと強化される。

 そうした構造を変えるのは、おそらくインターネットだと思う。

 アンコールワットの仏像大発見も、安易に新聞での紹介に期待するのではなく、といって「風の旅人」で紹介すればいいということでもなく、見応えのあるホームページを制作し、ブログをはじめとする様々な口コミネットワークで、多くの人に、きっちりとした内容を伝えられるようにすればいいと思う。


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