第901回 自然と美意識〜自然から学び、人間力を磨く

第4回 風天塾開催

「自然と美意識〜自然から学び、人間力を磨く」

日時: 2015年4月24日(金) 


開始:午後7時〜  開場は午後6時30分〜

場所: IMPACT  HUB  KYOTO(虚白院)→ 

 〒602-0898    京都市上京区相国寺門前町682  電話:075-417-0115

  語り手:今森光彦×石田秀輝  進行:佐伯剛(風の旅人 編集長)

風天塾の詳細はこちらをご覧ください。→

「美意識」というと、美しいものが好きとか嫌いとかの分別だと思っている人が多いかもしれないけれど、きっとその程度のことではない。

 自分の利益の為に人に媚び諂ったり、人を陥れることを平気でできるかどうかも美意識だろうし、自分の利益の為ではなく公共の為という信念を持ち、それを実現するために敢えて人を利用することもやむなしと判断するか、そうしないか、それもまた美意識だろう。
 だから美意識は、日々の生活の中の判断だけでなく、人生の中で何か重大な決定をする時に大きく関わってくる。
 高いお金を出して海外ブランドを買いあさること、有名大学や有名企業に入ることだけを考えること、あげくのはてに、生涯の伴侶を決める基準を外見や学歴収入で決めることなど、美意識によってライフスタイルだけでなく人生が変わる。ある時まで何をしても意義あることだと思えずに途中で放りだしていた人が、一つのことをきっかけに考え方が変わり何かに夢中になって取り組むということもある。自分の人生を賭けるに値するという判断も美意識なのだ。
 だから、少し前までは虚無の中を漂っていた人が、突然、愛国心に目覚め、中国や韓国を激しく非難し、そうし考えに従わない人を醜い人間だと決めつけ、力づくで従わせるために性急な行動に出ることもある。そうしたこともまた美意識のなせるわざだ。
 美意識は取り扱いを間違うと危険だ。だからといって「美へのこだわり」を無くせばすむ問題でもない。どんな人間も、生きているかぎり物事を判断せざるを得ない。その基準が、神になったり国家になったり、世間体になったり、自らの美意識の耕し方によって異なってくる。
 人間が、古代から哲学問題として考え続けてきたことや、文化伝統として積み重ねてきたことも、畢竟、美意識の問題だと言えるかもしえない。あらゆる執着を超える境地を目指す粋も侘びも寂びも、そして幽玄という美意識という言葉を使うことがはばかれる無分別の超越的境地もまた、そこに至ってしまえば無意識だろうが、そこを目指す道のりは”美意識”だ。
 ならば、美の基準をどこに置くか、それが人間の生き方を決めていくことになる。 
 現世人類は、自らホモサピエンス・サピエンス(賢い人)と名乗っているくらいなので、反省できる種族であり、過去の歴史を遡って、何をどう間違ってしまったか考えることができる。
 そうした様々な反省に基づいて、賢い人は、美意識において何を師匠とすべきかを考えることができる。
 人間社会の中に様々な矛盾が膨れ上がるのは、現世だけとは限らない。2500年前の中国の春秋戦国時代もそうだろうし、19世紀に急速に産業革命が進展し、環境破壊と貧富の差が急激に拡大した時もそうだ。
 そうした危機的な状況に直面するたびに、賢い人は、自然に目を向けてきた。人類の歴史は、ホモハビリスに遡っても250万年、ホモサピエンス・サピエンスにいたってはたかが10万年。地球上に微生物が誕生した35億年前を1月1日にして地球カレンダーを作ると、人類が登場したのは、12月31日という最後の1日だ。
 人類不在の気の遠くなるような長い歳月のあいだ、微生物や植物を含む生物は、この地球上で生き延びてきた。その生存の本質から学ばずして、賢い人(ホモサピエンス)と自称することが許される筈がない。
 人間が生きていくうえで様々な判断を行なう際に、各自の美意識が反映されるのであれば、その美意識を自然に即したものにすることが賢明なことになる。
 4月24日(金)午後7時から京都で開催する風天塾は、そこに焦点をあてていこうと思っている。詳細はこちら→
 ゲストは、今森光彦さんと、石田秀輝さん。
 風の旅人の復刊第5号でも特集を組んでいる今森光彦さんは、自然写真家の第一人者であり、切り絵作家としても優れた作品を生み出している。また、里山という概念を視覚的に広めたことでも知られている。

 石田秀輝さんは、地質・鉱物学をベースとした材料科学を専門とした研究者で、ネイチャー・テクノロジーを提唱し、具体的な技術開発と物作りを行なって社会をより良くしていこうとしている実践者だ。
 二人の仕事は、簡単な肩書きでは説明できない内容だが、共通して言えることは、自然との関わりがとてつもなく深いこと。とはいえ、自然と人工を対立的に捉え、人工を否定し、自然を讃美する自然主義者ということでもない。
 人間は、科学技術によって自然を人間に都合の良いように利用し、自然を破壊し続け、深刻な環境問題を引き起こしている。しかし、人間が一度身に付けてしまった力や、その恩恵を簡単に捨て去ることも難しい。時間は後戻りできないのだ。
 だとすれば、人間の力を信じ、その力を思う存分に発揮しながら、人間が作り出した様々な問題を解決する道を探ることが賢明ということになる。その為には、人間よりも遥かに長い時代を生き抜いてきたものから学ぶ姿勢が大事なのだ。
 人間が現れる前、地球上には様々な環境変化による過酷な状況があった筈で、それらを乗りこえる過程で、生物たちは、驚くべき仕組みやシステムを作り上げてきた。
 自然界の生物たちは、自らの力が過剰に発揮されて環境に負荷がかからないように制御する巧みな調整力を長い時間の中で備えている。性急さは禁物であり、自然から学ぶことは、時間との付き合い方を学ぶことでもある。
 今森さんも石田さんも、自然のすごさを学ぶために、自らの暮らしの形を整えているという点でも共通している。今森さんは、琵琶湖の傍に広がる棚田の中に仕事場を置き、その周辺を活動拠点にし、石田さんは、沖永良部島に移住し、自然環境や島の人々の営みを通して命の授業を受けながら、それを自らの創造力の源にしている。
 今森さんも石田さんも、そのように自然をベースにした営みを続けながら自然の本質を捉え直し、リ・デザインして世の中に問うている。今森さんは、写真や切り絵という表現活動以外に、子供達の自然教室などを積極的に行なっている。石田さんは、自然の仕組みを生かした新しいテクノロジーを世に送り出すとともに、、バックキャストという将来から現状を見る思考に基ずくライフスタイルと、地域活性化の幾つものプロジェクトに携わっている。
 自然に寄り添うだけでなく、改めて自然から学ぶことで、総合的な人間力によりいっそう磨きをかけていくこと。その延長線上に、健やかな人生と社会を築いていくこと。そうした美意識を育んでいくことは、世渡りの技術になりさがった教育や、自国社会のルールに従順になるための道徳教育よりも、大事なことかもしれない。


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