「GDP大幅減」という見出しの背後

 新聞にGDP大幅減という見出しが出ている。今年4月の消費税増減に伴う駆け込み需要の反動であると社説は続く。
 内閣府が発表した4〜6月期の国内総生産は、実質で前期比1.7%減で、このペースが一年間続くと仮定した年率換算は6.8%減。これは東日本大震災があった2011年1〜3月期に匹敵する。前回、消費税が上がった1997年4月〜6月期の年率3.5%に比べても大幅に悪化している。
 個人消費がふるわず、設備投資も減り、輸出も伸び悩んでいて、比較可能な過去20年で落ち込み幅は最大である。
 こうしたニュースは、ここ10年以上ずっと続いてきているので、みんな慣れっこになってしまっている。しかし、今年の2月に、消費税の増税対策として、総額5.5兆円もの補正予算が組まれていて(消費税を5%から8%に増やすと、約6兆円ほどの増税になるが、そのほとんどが補正予算に投入されている)、あちらこちらで公共事業が行なわれ、その為、建設業界の人手不足で東北の復興の足かせになっていると聞く。さらに、円安誘導によって輸出産業が潤うはずなのに、輸出が伸び悩んでいて、日本経済の足かせになっている。
 アベノミクス効果で景気は上向きだと政府は喧伝してきたが、一年前の4〜6月のGDP成長率が年率換算で3.8%という良好な数字を出した背景には、2013年2月に成立した総額10兆円もの大型の補正予算があった。GDPを嵩上げするために、GDP成長の3分の1が、公共事業など政府から発注によるものだ。
 そして、今日、同じ新聞に、民間調査ということで、リクルート関係の調査会社が、「景気回復の中で企業の三分の一が人材不足に陥っている」と発表している。実際には、飲食サービス業や小売業がかなりの人手不足だが、その理由として、好景気によって働き口がほかにたくさんあるからだと分析する。リクルートは、景気回復と人手不足を煽る事が、自らの求人広告を増やすことにつながるわけだから、そんな民間調査の分析など信じるに値しない。そんな民間会社の「企業3割が人手不足」といった発表を、新聞の見出しなどに使うなよと言いたい。(どの角度から数字をとるかによって、分析はいくらでも作ることができる)
 それはともかく、これだけ補正予算で税金を投入して、さらに円安誘導をして、公共事業が増えて、特定の業種の人手不足が起こっているにも関わらず、GDPが大幅に落ち込んでいるという事実をどう捉えるかが重要だろう。
 つまり、数字以上に、これまでの経済モデルは悪化している、もしくは変化しているということであり、カンフル剤的な公共事業投資や円安誘導では、どうにもならないということになる。
 そして、そうした政府の愚作が効果をあげてないというだけに留まらない。そうした愚作の悪影響はしっかりと残る。補正予算という言い方は綺麗ごとで、実際は、借金のうえに借金を重ねるだけのこと。そして、円安誘導によって、燃料その他の輸入代金は高騰する。これらは、経済モデルの変化に関係なく、我々の首をじわじわと締める。そして、現行の年金政策はGDPが右肩上がりに成長していくことが前提になっているので、これだけカンフル剤を打ってもGDPがマイナス成長となると、年金制度が成り立たなくなる。
 新聞の社説も安易きわまりなく、GDPの大幅減に対して、「働く人を増やす必要があり、女性が働きやすい環境を社会全体で作り出すなど、就労促進策も急がれる。」と結論を書く。リクルートの調査と歩調を合わせるところが、意識的なのかどうかわからないが、胡散臭い。
 この社説が書くように、安倍政権は、次なる人気取りのために、女性議員を幹部に抜擢し、政府が率先して女性を活用しているのだと胸を張ることだろう。実際には、知名度はありながら実力がなく、自分の言いなりになる人間で自分の周辺を固めるだけのことだろう。そして、人気取り政策で国民をごまかしている間に、集団的自衛権の次の手を打ってくる筈だ。
 「この難局を乗り切る為に、今こそ国民の一致団結が大事だ」という類の言葉が発せられるようになる時、我々の未来に暗澹たるものが立ちこめているのだということをすぐに察しなければ、我々を思うままに縛ることができる法律が公布されてしまい、法の前に、どんな抵抗もできなくなる。一度でも、”法”の壁を感じたことがある者は、その強制力の恐ろしさを知っている筈だ。刑事事件だけでなく、ビジネス、不動産、税金、交通違反の取締り等、まったく融通がきかない法による縛りが存在している。法律は国民の秩序と安全を守るためという大義名文によって、その強制力が担保されているので、1人の人間としてみれば、いざという時になんの頼りもならないような人が、その権力を施行するポジションになるだけで、傲慢に他人を従わせる裁定者になれてしまう。そして、得意満面になる。しかし、プライドは高いものの自分の器量の小ささは自覚しているので、自分を大きく見せるように、自分が不利な状況にならないように、姑息な手を打つ。
 その用意周到な姑息な手に、簡単にごまかされてはいけない。新聞やテレビなどで発せられる耳障りのよい言葉を、安易に受け止めてはいけない。新聞やテレビは、自らの生き残りのために、その姑息な手に乗じる場合もあるし、そうでなくても、権力者に、情報をうまく操作され、愚かにも利用されてしまうことがある。政府の側につく調査会社の数字を与えられて、安易に右から左に流してしまうなど。
 とりわけ日本の新聞やテレビは、自分の足で情報を探すのではなく、公権力から与えられる情報を流すところばかりなので、それぞれが小さな見出しでも、日本中どこを見ても同じ文言が氾濫しているという状況になってしまい、それが、国民の意識の中に刷り込まれてしまう。本当に気をつけなくてはいけない。

 



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