「思考の癖」による食い違い

 私たちが生きている社会のなかで生じている様々な問題に対して、固有の「物」に原因を求めていくという方法もあるだろうが、私は、あまりそういうことに関心がない。

 固有とされる「物」でも、実際には固有ではなく、他に取って変わられる「物」であることが多いので、私はこのブログでは、その「物」が発生する潜在的可能性のある「場」の方に、問題意識を向けたいと思っている。

 その一定の傾向を示す「場」を明らかにするために、便宜上、「一般化」された「物」を言葉として使わざるを得ないのだが、そのように使われる言葉は具体性を持たないので、面白くなく、論じる意味がないと考える人もいるみたいだ。

 ただ私個人としては、特定の人物なりを批判することの方が簡単だが、あまり面白くないし、大した意味がないと思っている。

 私の考えでは、具体性というのは、「特定の固有物」だけとはかぎらない。「場」もまた、一定の範囲を持つ具体性なのだ。

 例えば、私が「お年寄り」とか「科学」いう言葉を使う時、それは自分以外の一般的なその他大勢を指しているのではない。また、その言葉で表される固定した枠組みのなかの専門的な一握りを言うのでもない。

 それらの言葉は、自分も含めて潜在的可能性を持つ、「一定の傾向」を示している。科学者は、科学的思考を自らの専売特許と考え、素人と一緒にして欲しくないというプライドを持っているかもしれないが、現代社会を生きる私たちは、科学的思考の癖を潜在的に持っているのではないかと私は思っている。たとえ自らが科学的思考をしていると意識していなくても、たとえば病気などになった時に、科学的思考を拠り所にしやすかったり、科学で証明できないことを、あまり信じなくなっているのであれば。

 私は、このブログでは、一定の傾向を持つ対象範囲のなかに今日的な問題の原因が潜んでいるのではないかと捉え、その原因の在処を自分なりに明確にしていくため、その「場」の対象範囲を狭めていくという思考の仕方をしている。

 そして、このブログの延長にある「風の旅人」では、「場」の具体性をより明確にするため、具体的な「物」を見せていくわけだが、その「物」が簡単に他に取って変わられたり、意味をすり替えられたりせず、それそのものとしての強さを保つために、どうすればいいかと試行錯誤している。

 もう少し分かりやすく言うと、このブログで、「お年寄り」という一定の範囲にある人が陥りやすい傾向のことを問題提議するけれど、それを問題提議するだけでなく、「ならばどうすればいいと考えているのだ、おまえは?」という自分に対する問いに、具体的な物で応えていくことが、「風の旅人」を作るということだ。

 だから自分にとって、この二つは表裏の関係にある。

このブログだけを読む人のなかで極端な人は、たとえば私の4/27のエントリーで、現代社会の悪の元凶を「お年寄り」に押しつけるのか!と怒ることがある。

 しかし、丁寧に文脈を読む人は、お年寄り一般を攻撃しているのではないとわかるのではないかと思う。また、「風の旅人」のなかでは、私が美しいと感じる「お年寄り」を具体的な「物」をして見せている。だから「お年寄り一般」を批判攻撃しているわけではない。

 どうしようもない「お年寄り」もいれば、立派な「お年寄り」もいる。介護の現場に行くと、それは当たり前の事実として感じられる。

 だから、良い悪いの客観的分析ではなく、自分も含めてお年寄りになっていくわけであって、年齢の重ね方や引き際において生じる”ある傾向”について、自分ごとの問題として捉えることが私の趣旨だ。

 「お年寄り」攻撃なのではなく、過剰な「他者依存」や「引き際の悪さ」が、この世の悪循環を生み出す原因の一つになっていくのではないかと、私は自戒をこめて考えてる。

 そして、自らの「他者依存」や「引き際の悪さ」という醜態をカムフラージュするために、「愛」を口実にすることが問題をより複雑にしているのではないかというのが、4/27のエントリーで言いたいことなのだが、「お年寄り一般」への攻撃と単純に捉える人もいる。もちろん私の文章が粗雑だからそういう印象を持つのだろうと思うが、それ以前の問題として、「思考の癖」に食い違いがあるとも言える。

 この「思考の癖」の違いはいったい何によるものか、実に興味深い。

 あくまでも私の直観でしかないが、この「思考の癖」の食い違いは、たとえば、経営評論家と経営者の言葉の違い、芸術家と評論家の言葉の違い、官僚と生活者の言葉の違い、学問と日常生活における言葉のリアリティの違いなど、現代社会で用いられる「言葉」と「実態」とのあいだに、しばしば現れている傾向ではないかと思う。この両者の間に横たわっているものがいったい何なのか、評論家の側から考えることは多いだろうが、その逆側から考えていくことも必要なのかもしれない。

  

 

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