第1210回 出版不況のなか、あえて写真集を作るなら。

 このたび制作した大山行男さんの写真集「The Creation 生命の曼荼羅」。

www.kazetabi.jp

 

 発送作業も一段落し、届いた方から、メッセージをいただいています。幸いなことに、今のところ、不満の声は届いていません。

 私は、これまで同じ印刷方法で、自分の「Sacred world 日本の古層」を二回、発行しましたが、他の写真家でのチャレンジは初めてだし、カラー印刷は初めてだったので、少しは心配していました。ただ、印刷は、モノクロの方が難しく、モノクロである程度は納得できるものだったので、カラーは大丈夫だろうとは思ってはいましたが。

(モノクロは、白黒だけで表現するので、白黒の濃淡のバランスが少しブレるだけで印象が変わってしまうのです)。

 「The Creation 生命の曼荼羅」の写真集は、税込、運賃込みで1500円で販売しているので、もっと薄っぺらいカタログのような本が届けられると思っていた人が多かったようで、ボリュームと、再現性のクオリティにびっくりしている人が、けっこういました。

 私は、近年、自分のまわりの写真家でもそうですが、出版社に共同出版を持ちかけられて、小さくページの少ないもので250万円、ちょっと大きくなると400万円も負担させられて写真集を作っている人が増えていて、そのことにものすごく違和感を感じています。写真家にお金がない場合は、クラウドファンディングをするように促されて。

 クラウドファンディングで作ることを否定する気はありませんが、クラウドファンディングは、お礼状その他の付加価値をつけて、実際価格よりも高額の負担を強いることで目標金額に達することを目論むものが多いです。なので、一度は協力してもらえても、何度も繰り返しやったりすると、辟易される可能性があります。

 クラウドファンディングをするくらいなら、適正価格で事前予約をとって、印刷すればいいのです。お金の流れとしては同じです。お付き合いでお金を払ってもらうのではなく、本当に欲しいと思ってもらえるかどうかというジャッジを、作り手は自分に課した方がいいです。お付き合いで買ってもらっても、ちゃんと見てもらえなければ、せっかくの作品は死んでしまいますし。

 とはいえ、もはやどこの出版社も、写真集を作ってもメリットがないと思っているのが現実であり、自費出版にするにしても作家の負担が大きすぎる現実があります。

 なので、私は、何人かの友人の写真家に、こういう方法もあるよと、私の方法を実践してみせているのです。

  「The Sacred world 日本の古層」は、モノクロ1色の印刷で1000部作り、税込、運賃込みで、印刷代は45万円くらいです。

 今回の「The Creation 生命の曼荼羅」は、カラー印刷で1200部作り、総額65万円くらいです。

  写真集でよくやるようなモノクロの特色使いはできないのですが、風の旅人の時のように4色でモノクロ印刷をすることは可能で、そうすると、黒はもう少し締まります。私は、「Sacred world日本の古層」は、文章も多いので、あえて4色にはしていません。4色にすると、10万円強、コストアップします。

 この方法で一番心配なのは、校正刷がないことです。物理的に校正刷は可能です。しかし、総額が65万円と安いのに、校正刷代が一回で同じくらいのコストが必要です。

総額が300万円くらいになるとすれば、その300万円を無駄にしたくない心理が働き、慎重に校正を行なって360万円になっても仕方がないということになります。

 しかし、総額が65万円となると、校正刷りを出して130万円にする必要があるのかどうか、ということになります。だったら思い切って作ってしまえばいいんじゃないかという発想。

 というのは、昔と違って、現在、校正刷はそんなに意味がありません。

 昔は、ポジとかプリントを入稿して印刷会社が、写真を4色に分解していました。なので、その結果を校正刷りで確認する必要がありました。

 しかし、今は、データーの作成を制作者側で行い、そのデーターの出力結果を校正で確認するだけのことです。そして、修正が必要な場合は、けっきょく印刷会社側が、入稿データをフォトショップで修正をするのです。それゆえ、入稿データは、印刷会社も対応できるadobeインデザインなどのソフトで制作することが求められるのです。

 だったら、入稿前に、どのように出力されるかを制作者が判断してデータを作れば、校正刷は必要ありません。

 制作者側が作ったデータに忠実に、印刷されるだけです。

 制作者側が作ったデータは、データが固定されるようにPDFデータに変換します。

 その PDFデータを、印刷会社は印刷データに変換します。近年、この変換技術がレベルアップしているのです。

 その印刷データから刷版を作り、印刷を行うという流れができていますから、印刷会社は、昔のように営業担当の人間が、制作側と印刷現場のあいだを行ったり来たりして、制作者側の要求を伝えるなんてことはしません。そういう人件費もすべてコストにはねかえっているだけです。

 もちろん、本の作り方はいろいろあります。手作り感を出した凝った製本にするとか、制作者側の欲求にそって、その分、コストをかければ何でもできます。

 私の場合は、風の旅人も、森永純さんの「Wave」や鬼海弘雄さんの「Tokyo view」など大型写真集も、体裁にコストはかけず、写真の力を最大限に引き出すことだけに力点を置いて作っています。中身重視です。

 それは個人的な性格にもよるもので、食べ物なども、見た目が悪くても、うまいと感じられるものが好きなのです。

 パッケージなども、どうせゴミになるからという野暮な気持ちが強いですし、本も、帯とかカバーが嫌いです。あれがあると読みにくいので、読み始める前に外して捨ててしまいます。手に持った感じ、手に触れた感じで、いい感じの物の方が、服なども好きです。

 人それぞれですが、どこにコストをかけるかの違いです。

 デザインソフトなども、いろいろと複雑なことができるアドビのインデザインの方が信頼性があるかのような錯覚で、高いお金を出して、みんなそれを使います。

 毎月5000円も支払って。私は、1ヶ月間の無料トライをやってみて1週間で、これは必要ないと判断して辞めて、1回だけ2000円を払えばいいソフトをダウンロードして使っています。

 こちらの方が操作が簡単で、マニュアルなど読まずに直感的に操作ができるからです。

 広告のデザイナーで、クライアントから無理難題を言われても応えなければならないような人は、完全武装をして備えておく必要がありますが、ふつうに本を作るだけなら複雑な完全武装は必要ないです。

 最近、有名な出版社も、経営が苦しくなってきているのでしょうが、素人の人たちに向けて「あなたの本を、プロの編集者が作ります」といった広告を多く出しています。

 世の中の人々に本を買ってもらえなくなって収益が得られないので、本を作りたい人の本を作ってあげることを収益にしようとする戦略です。しかし、本を買う人が大幅に減少しているという現実認識があるにもかかわらず、素人に本を作らせようとしているわけで、大きな矛盾があります。モラルも何もないとしか思えません。まあ、そういう戦略に簡単に乗ってしまう人が多いから、そういうことができてしまう。

 自分の本が、ごく特定の本屋に置かれる(買ってもらえるわけでないのに)ことが誇りに感じられるというのは、もはや、完全に時代錯誤のような気がするのだけれど。

 

www.kazetabi.jp