右脳と左脳の話

 http://japan.digitaldj-network.com/articles/18707.html

 これは、TEDで行なわれたジル・ボルト・テイラーの講演会。脳卒中で左脳の機能を奪われた脳科学者が、そのことによって自らに起こった変化を語っている。

 左脳と右脳の違いはわりとよく知られている。左脳は言語野で、論理や理性を司り、右脳は芸術脳で、感情を司るなどと。

 しかし、右脳と左脳の関係は、そんなに単純ではない。

 右脳も左脳も、世界に対応しているのだが、その対応の仕方が、若干異なっている。右脳は、直接的に世界とつながり、左脳は、世界と自分のあいだにちょっとしたクッションが入る。そのクッションが、理性となる。

 理性的であるというのは、クッションがあるからこそなのだが、それがあればあるほど、世界との一体感も失われる。世界からの疎外感も強まる。左脳は、世界のまるごと全体を感じることがとても苦手で、世界を細かく分断し、その部分と自分との関係を計るわけだが、同時に、世界には自分が選びとった部分以外も存在していることを左脳は知っているので、自分が中途半端な存在となっていることを常に意識してしまう。

 世界を分断して、その部分だけに集中して何かを行なう場合、たとえば電話番号を覚えたり、電話機の電話番号を正確に押したりするうえで、左脳は大切な役割を果たすのだが、その分断の役割が強く発揮されればされるほど、自分の身の回りのものと自分とのあいだに境界がなくつながっているのだという喜びが失われていく。

 そうした左脳と右脳の違いを把握したうえで現代社会を見ると、現代社会が、非常に左脳的な側面が強い状況にあることがわかる。”管理”などという言葉も、左脳からしか出てこないものだ。宇宙の対称性を極端に重んじる現代最先端の宇宙論も、左脳のふる活動だ。

「右脳にとっては"現在"がすべてです この場所 この瞬間"がすべてです 右脳は 映像で考え 自分の体の動きから 運動感覚で学びます 情報は エネルギーの形をとって すべての感覚システムから 同時に一気に流れ込み この現在の瞬間が どのように見え どのように臭い どういう味がし どんな感触がし どう聞こえるかが 巨大なコラージュになって現れるのです。

右脳の意識を通して見ると 私という存在は 自分を取り巻くすべてのエネルギーとつながった存在なのです 1つの家族として互いにつながっている エネルギー的存在です 今 この場所 この瞬間 私たちはこの地球上で 共に世界をより良くしようとしている兄弟姉妹です この瞬間に 私たちは完璧であり 完全あり 美しいのです
私たちの左脳はまったく異なった存在です 私たちの左脳は直線的 系統的に 考えます 左脳にとっては 過去と未来がすべてです 左脳は 現在の瞬間を表す 巨大なコラージュから 詳細を拾い出し その詳細の中から さらに 詳細についての詳細を拾い出すようにできています」

上記「 」内、ジル・ボルト・テイラーの言葉より抜粋。

 私たちは、左脳も右脳も与えられているわけだから、左脳的な側面も否定するわけにはいかない。それはとても大事なものだ。しかし、左脳をふる回転したところで、全体の半分しか認識できないということも理解していなければならない。左脳をふる回転したうえで導き出された正しさは、最高点までいったところで、世界の半分なのだ。

 そして、左脳全盛の時代は、左脳の認識が全てを支配するかのように錯覚してしまうが、実は、脳卒中などの病気以外においても、左脳の働きよりも右脳の働きの方が強い時代もあったということも知っておく必要がある。

 たまたま、私たちは、現代という左脳的側面の強い時代を生きているだけであって、これが人類の歴史において最高というわけではない。現代の標準的な価値観というのは、ここに至るまでの色々なプロセスがあったわけだが、何かのきっかけで社会的な脳卒中にような出来事があって、白と黒や善悪の分断よりも、そのあいだのグレーゾーンの豊かさに幸福を感じる状況に、ならないとは限らないのだ。

 この脳科学者の講演に、何かしらのインパクトを感じた人は、ぜひ、次の本を読まれるといい。

 この本の著者であるジュリアン・ジェインズは、偉大な学者だが、生涯において、この一冊しか本を出していない。この「神々の沈黙」は、人類の歴史(西欧やオリエントの歴史の範疇で東洋まで届いていないのが残念だが)の中で起こった、右脳思考と左脳思考の変化について、非常に、詳細に、興味深く描きだしている。

 私がこれまでに読んできた本のなかで、かなり自分の考え方というか世界の捉え方に影響を与えた本だ。



神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡

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