第899回 株高と年金積立金と、その後の不安。

 15年ぶりに株価が20000円に達したと浮かれていられない。

 15年前、2000年のITバブルの時、以前に所属していた会社で専務取締役だった私は、翌年に控えた株式上場準備の責任者として、色々と手を尽くしていた。

 2000年に上場した楽天サイバーエージェントは、400億円とか200億円というキャピタルゲインを得ていたが、2001年になると株価は急落。2000年には20833円の最高値をつけた株価は、2001年の最低価格が、なんと9382円。たった一年で、ものすごい下落。

 2001年に株式上場した私の会社のキャピタルゲインは、その前年に上場した会社とは比べものにならないくらい、惨めなものだった。

 今回の20000円超えだって、実態経済の伸びに比べて異様な上昇曲線で株価があがってきたわけだから、バブルと言って間違いない。しかし、その背景を考えると、2000年の時よりも不気味だ。

 2014年は、1月の平均が14914円で、10月に、GRIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のポートフォリオが大きく見直される前、9月の時点での平均が16173円で、わりと安定した年だった。

 株価が大きく上昇したのは2013年で、10640円から始まり、16291円で終わった。その間に株を買い占めたのは外国人投資家で、その金額は15兆円と言われている。

 外国人投資家は、その後、静観をし続け、2015年が明けてから、次第に株価が上昇て射るあいだも、ほとんど買っておらず、その間に、1兆円以上も売っていた。

 最近、株価を急激におしあげた原因は、外国人投資家ではなく、年金運用資金が市場に入ってきたからだった。
http://www.huffingtonpost.jp/foresight/gpif_b_6741068.html

 GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、許容される上限の34%まで国内株式を買い増したとすれば、20兆円近い資金が株式市場に投入されることになる。
 海外投資家は、2013年に15兆円買い越したが、2014年1年間でわずか8526億円しか買い越さなかった。株価がまだ安かった2013年に外国人投資家は日本株を買いまくったのだ。そして、2014年、外国人投資家が獲物を狙うように息をひそめて待っているあいだ、少しだけ株価があがったのは、GPIFの資金が流れ込んだと見られる「信託銀行」が株を買ったからだ。
 そして、2014年10月、GRIFのポートフォリオが大きく見直されることになり、債券中心の安定運用から、株式を重視した積極運用へと切り替えることになった。株価はそこから急激に上昇してきたが、それは期待感からではなかった。なぜなら、ここまで株高になると、2013年の安い時に15兆円も買いためている外国人投資家は、もはや買う必要はない。あとはどのタイミングで、それを売りに出すか。2013年の水準より高ければ、彼らは損をしない。2013年の前半に買った人は、今売れば、資産が倍になる。
 そして、もし彼らが売り逃げたら、2万円に近づいたところで莫大に株を買ったGRIFの年金資産はいったいどうなるのか、考えただけでも恐ろしい。
 こんな流れは、2013年からの株の動きを見れば十分にわかることなのに、テレビなどに登場するエコノミストで、経済の好循環云々の話を繰り返す人も多い。
 冷静に考えて、10000円〜15000円の時に15兆円も仕込んだ外国人投資家が存在していることを踏まえていれば、今後のストーリーも予測がつく。
 何かちょっとした事件をきっかけに、それがあたかも重大事件のように情報操作しながら、外国人投資家が足並みを揃えて動きだすのだろう。
 その時、20000円に近い高値で買ってしまったGRIFは、簡単に売りに出せない。年金資産を減らしてしまうからだ。そして、GRIFが金縛りにあっているあいだに、株価はさらに下がり、どうしようもなくなる。
 そこまでの流れは素人でも読める。問題は、そうした政策のミスをごまかすために、政府が何をしかけてくるかだ。経済が混乱する時に、どんな大義名分をたてて、政府がわれわれを欺こうとするのか、(経済混乱の原因は中国だとか言い出さないとも限らない)、どのように国民の不満や不安を紛らわそうとするのか、目を凝らしてしっかりと見ておかなければならない。

 そのタイミングで行なわれることが、その後の10年を決めてしまう可能性もある。

 1929年にウォール街の恐慌があって企業倒産が相次ぎ、社会不安が増大するが、それから少しずつおかしなことになっていき、恐慌から4年後に、国際連盟を脱退、7年後に、2.26事件、そして9年後の1938年4月に、国家総動員法が公布された。

 東日本大震災から既に4年が経ったように、5年や10年なんてすぐだ。 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

*「風の旅人だより」にご登録いただきますと、ブログ更新のお知らせ、イベント情報、写真家、作家情報などをお送りします。

「風の旅人だより」登録→

風の旅人 復刊第5号<第49号> 「いのちの文(あや)」 オンラインで発売中!

Kz_49_h1_2

鬼海弘雄さんの新写真集「TOKYO VIEW」も予約受付中です。

Img003

森永純写真集「wave 〜All things change」オンラインで発売中

Image