第1012回 どの政党が勝つか、よりも大事なこと

 選挙の結果がどう転んでも、悲しいかな、ろくなことにならないような気がしてきた。希望の党から出馬の中山成彬文部科学相が、 首相に望ましい人物として「安倍晋三首相がいい」と、堂々と発言しているようだ。
 希望の党が「安倍政権打倒」を掲げていることに話を向けられても、中山氏は、「そこまで(党内で)意思統一ができていない」と語っている。
 http://www.sankei.com/politics/news/171006/plt1710060114-n1.html
 まあ、こういう情報もメディアの情報操作かもしれないので注意は必要だが、希望の党の公約を見ても、本気で政権をとろうとしていないように感じられる。

希望の党の公約
?消費税増税凍結
?議員定数・議員報酬の削減
?ポスト・アベノミクスの経済政策
?原発ゼロへ
?雇用・教育・福祉の充実
?ダイバーシティー社会の実現
?地域の活力と競争力の強化
?憲法改正
?危機管理の徹底

■「希望への道」しるべ 12のゼロ
?原発ゼロ
?隠ぺいゼロ
?企業団体献金ゼロ
?待機児童ゼロ
?受動喫煙ゼロ
?満員電車ゼロ
?ペット殺処分ゼロ
?フードロスゼロ
?ブラック企業ゼロ
?花粉症ゼロ
?移動困難者ゼロ
?電柱ゼロ

 政権をとったとしても、首相に誰がなるのかわからず、官房長官をはじめ、閣僚になる人間の顔も思い浮かばない。
 政権政党にならないのであれば、有権者の気を引くために、なんでも言える。そうやって、少しでも多くの議席を獲得しておけば、選挙後に影響力を持てる。その影響力をどのように使うか。本当の駆け引きは、選挙後なのだろう。
 日本の最近の政権をみると、1987年に起こった世界的株価大暴落ブラックマンデーから1990年代前半のバブル崩壊までの混乱が細川政権につながった。
 1997年のアジア通貨危機、1998年のヘッジファンド危機から続く金融危機が、小泉政権へとつながった。
 さらに、2007年にはサブプライムローン問題が起こり、2008年のリーマン・ショックから民主党政権が誕生した。
 いずれにも、政治を「リセット」しなければどうにもなりませんよ、という雰囲気の中で、政治構造の変化が起こった。
 しかし、それでも、日本の政治は大きく変わることがなかった。政治家は選挙のたびにコロコロ変わるが、官僚は変わらない。官僚が敷いたレールから大きく外れないのが、これまでの日本の政治なのだろう。
 しかし、今回の選挙の結果次第では、憲法が変わってしまう恐れがある。民進党が分裂させられ、民進党から希望の党に移った人間が、憲法改正に賛成する誓約書に署名をしたので、自民、公明、維新、希望の連携で、憲法改正に必要な衆議院議員の2/3の賛成を受ける可能性が高まったからだ。
 もちろん、その後、参議委員でも2/3、国民投票では有効投票総数の過半数の賛成が必要だが、大きな流れができるのは間違いない。 
 憲法の問題は、第9条だけとは限らない。
 ヒットラー政権の大暴走の転機は、1933年だった。
 それまで少しずつ国民の支持を広げてきたヒットラー率いる国家社会主義ドイツ労働者党が単独過半数をとった後、全権委任法を国会承認させた。この法律は、議会の審議を経ないで法律を制定できるもので、7月には政党禁止法によりナチ党以外の政党は禁止された。また、ワイマール憲法に定められた基本的人権や労働者の権利のほとんども停止された。
 法律の力で、ナチスは、自らの行いを正当化していった。そして、そのナチスに、法律を変える力を与えたのは有権者だった。
 一人の極悪人によってドイツは戦争に突入していったのではない。そのことを忘れてはならないと思う。
 選挙を前に、どの党が勝つか負けるかを分析したり、どの党を打倒するかとムキになることよりも、この国の未来がどんな姿になっていくのがいいのか、冷静に自分の頭で考える機会にしなければならない。
 経済成長、福祉充実、国民の暮らしの向上などと、政治家は、耳障りのいいことばかり言っているが、私たちは、自分が生きていくうえで、どんなことを大切にすべきなのか。お金のことや老後の安心が、本当に生きがいにつながっているのか。自分のことも大切かもしれないが、昔の人が孫の代のことを考えて樹木を育てたように、私たちは、未来の種を育むような生き方をしているだろうか。
 私たちが自分のことしか考えないから、結果的に、自分のことしか考えない政治家を選んでしまっているのかもしれない。