あの震災の記録を継続して行く為の、クラウドファンディング

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https://readyfor.jp/projects/enami_photobook01

 正直に言うと、このクラウドファンディングに参加すると、3.11の東北大震災の写真集制作の支援の見返りに写真集のカバーに自分の名前が記されるとか、オリジナルの帯がつくといったことに、最初は違和感を感じた。
 しかし、こうしたクラウドファンンディグの方法を使ってでも、あの大震災のことを風化させない為の努力を続けなければならないのだと思いもした。
 メディアに依存した形での情報発信は、けっきょくメディアの都合によって左右される。世間の人々の関心が弱まってくると、何でもいいから別の関心事に焦点を当てた方がビジネスとしてメリットがあると判断するのが、悲しいことに、日本の多くのメディアの現状であり、そうした志の低いメディアの情報操作によって日本人の意識の方向付けがなされてしまっている。
 この日本の構造をどう変えていくのか。変えることができるのか。変えるための僅かな可能性に賭けるのであれば、権力にすり寄りスポンサーである大企業の顔色をうかがい巨大な権力装置のようになってしまっているメディアとは、まったく異なる方法を生み出さなければならない。
 未だ、メディアに取り上げられて自分の名前が大衆化することで自尊心を満足させて優越感に浸ってしまう卑小な自称表現者が多くて残念極まりないけれど、なかには、自費出版という形で自分でリスクを負いながら、情報発信をしていく表現者もいる。
(自分でリスクを負って自費出版しているくせに、なぜかそれを恥じて、出版社の権威にすり寄り、出版社に選ばれて出版しているかのように装っている人も多く、その為、出版社の崩壊寸前の権威が、かろうじて保たれているという現実もあるが)。

 写真家の榎並悦子さんは、あの大震災の後、何度も東北に通いながら写真を撮り続けている。
 大衆メディアのセンセーショナルな報道や、テレビドラマのようにお茶の間の人々の涙を誘う演出とはまったく異なるポジションで、あの震災と向き合い続けている。数字化され、パターン化されがちな震災報道。広く多くの人々に伝えることを目的とする情報伝達は、どうしてもそうなりがちだ。
 榎並さんは、人の数だけ物語があるという信念のもと、全体の中の一部かもしれないけれど、それらの物語の一つ一つに寄り添いながら活動を続けてきたし、これからも継続していく意欲を持っている。
 東北大震災から三年目で、この写真集を出そうとするのは、過去形で「震災の記録」を伝えるためではなく、現在進行形のものを伝え、さらに三年後、そしてまた三年後にも、報告できるようにという思いからだ。
 自分でリスクを負って、生命保険を解約してでもという覚悟もあるが、現在、大衆マスメディアに頼るか、自分の私財を投げ出すかという極端な選択ではなく、その中間に様々な方法も生まれてきている。
 クラウドファンディングも、その一つだ。だから、この方法を使うことにした。
 こうした方法を使うことで、大衆メディアに依存することで逆に大衆メディアにコントロールされるということがない情報伝達を、継続していけるかもしれない。

 本屋にズラリと並んでいる出版物の中から本を選ぶという20世紀から続いてきた情報の選択方法だけが、現在の在り方ではない。ましてや、その方法に縛られた状態で、20世紀の問題を超えた21世紀の新しい社会の在り方にアプローチできる筈がない。
 出版社がコントロールして出来上がったものを買うだけでなく、情報を受け取る側が、自分達に本当に必要な情報は何だろうかと考え、そうした情報を提供しようとする表現者を支えることでその情報が世の中に出ていき、結果的に、その情報を手に入れることができる。
 とりわけ、日本社会を大きく変容させるかもしれない東北大震災については、これまでの社会でメリットを享受できていた側の人達が発信する情報を、鵜呑みにしない方がいい。なぜなら、彼らは、社会の構造を変えたくないわけだから。
 これまでの社会を完全に否定するつもりはないが、それが最善ということではない。変わらなければならないところは、いろいろある。その変化のイニシアチブを握っていくのは、これまでの権威構造に依存せずに、その為、色々な困難があるけれども自分の足で立とうとする主体的な人達だろう。
 自己満足で終わる単なる支援なのではなく、そうした流れに主体的に参加する人が少しずつ増えていくことで、状況は、少しずつ変わっていくのだ。
 希望の反対は、絶望ではなく、諦めであり、諦めている人が大半を占めている場は、少しずつ淀んでいき、腐っていく。
 諦めずに、自分が場(社会)を変えていく力の一部になっているという自覚を持てる人が増えていくことが、未来に対する希望になる。
 大衆メディアの在り方に対しては諦めるしかないかもしれないが、それが世界の全てではなく、私自身もまた、新たな方法で、たとえ小さくてでもいいから、揺さぶりをかけていきたい。
 風の旅人の作り方と、既存の書籍流通に依存しない販売の方法も、そういう思いから始めた。
 写真家もまた、榎並さんのように、新たな方法で写真集を発表することを、試みていくべきだと思う。
 榎並悦子さんのチャレンジは、こちら→https://readyfor.jp/projects/enami_photobook01

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