第1390回 人間の傲りを抑制する日本の聖域

真脇遺跡 石川県鳳珠郡能登町 ギリシャのパルテノン神殿やエジプトのピラミッド、シリアのパルミラ、マヤのティカール、エチオピアのラリベラ、アンコールワットやボルブドゥール、タクラマカン砂漠の楼蘭遺跡も含め、世界中に残る遺跡の大半を訪問したけれ…

第1389回 情報とリアリティのあいだ。

何事の おわしますかは 知らねども かたじけなさに 涙こぼるる 西行 神社や古墳や祭祀場が、なぜその場所にあるのかという理由は、現場に立ってみなければ感じ取れません。 そして、その場所に聖域を築いた人たちの心の中を自分ごととして引き寄せないと、そ…

第1388回 電子書籍ではなく本にすることの意義。

まもなく「始原のコスモロジー 日本の古層Vol.4」を印刷会社に入稿します。 本という物体は、在庫が悩みの種なので、先行予約をいただいて、印刷数量を決定する予定です。 始原のコスモロジー 日本の古層Vol.4 まもなく発売。予約受付中。 www.kazetabi.jp …

第1387回 人工知能が、積極的に商業的な動機で使われるようになる転機。

人類の将来を左右するかもしれない動きが、世界中の人たちが瞬きしているあいだに行われていたと、後から振り返った時に思うかもしれない。 オープンAIがChatGPTの無料サービスを公開したのは2022年11月30日。まもなく1年になるが、ツイッターで2年、フェイ…

第1386回 AIが、クラウドサービスを通じて企業内情報を学習していくことで起きること。

驚くべき速さで、オープンAIに動きがあった。 昨日の投稿で、CEOを解任されたアルトマン氏と、理事会(企業の取締役会に相当)のあいだに起きた軋轢について書いたが、マイクロソフトが素早く介入し、アルトマン氏と、オープンAIの社員を丸ごと吸収する動き…

第1385回 オープンAIに起きている騒動は、人工知能の未来を左右するかもしれない。

人工知能の最先端の領域が激しく揺れている。 現在のこの動きは、人間が人工知能を正しく管理できるのか、それとも人間は、人工知能を自分の欲と利益のために使おうとする競争のために管理できなくなり、けっきょく人工知能の僕になってしまうかの分岐点なの…

第1384回 イスラエルのイデオロギーと、日本古来の境界意識の違い。

間垣の里(石川県輪島市) イスラエルに限らないが、唯一絶対神の世界は、善悪二元論でもあるので、敵と味方の線引きを明確にしたがる。だから、その境界に、高い壁を築く。ガザを取り囲む壁は、ベルリンの壁よりも高く、その壁は、見方を変えれば、奢り昂っ…

第1383回 イスラエルは、なぜアブラハムのことを自分ごとにできないのか。

ガザとイスラエルの問題は、私なんかが何か意見を言えるようなことではないけれど、ハマスの無差別殺人から始まったこととはいえ、最先端の兵器を大量に備えるイスラエルの、市民や子供の区別なく徹底的に破壊し殺戮し続ける暴挙は、正気の沙汰とは思えない…

第1382回 吉備の鬼退治の真相。

楯築遺跡 吉備には、日本の古代史の真相につながる深い謎が幾つかあり、一昨日に書いた鬼退治のことや、鬼ノ城という山城の存在が、よく知られている。 それ以外の謎として、2世紀後半という、卑弥呼の時代以前に作られた楯築遺跡がある。これは全長70mとい…

第1381回 神話は史実ではないが、単なる空想の産物でもない。

神話は史実ではないが、単なる空想の産物でもない。かといって、権力者による自己正当化の物語でもない。 神話は、古代における秩序形成のために創られたコスモロジーである。 コスモロジーというのは、自分たちが生きている世界をどう解釈し、その世界でど…

第1380回 古代のことを考えるためには地理のことを踏まえる必要がある。

古代の吉備国の聖域は、吉備の穴海にそって築かれていた。 古代のことを考えるためには地理のことを踏まえる必要があり、吉備もまた例外ではない。 古代の吉備において早くから高度な文化が栄えた場所は、現在の岡山市から総社市や倉敷市にかけての一帯だが…

第1379回 この時代の”編集”の仕事について

1年に一度、京都に来て学んでいるスタンフォード大学の学生に対して「編集」に関する講義をしていて、一昨日にそれを行った。途中、コロナ禍があったので記憶が曖昧だが、6、7年前に始めたかと思う。 毎年違う生徒なので同じ内容のものでも構わないのだが…

第1378回 京都の水と地質。

京都最大の滝、空也の滝。愛宕山の麓 このたび、定期的に行っているワークショップセミナーとは別に、オーダーメイドの依頼があったので、その内容に応じたフィールドワークとセミナーを行った。 ガラスメーカーの方達で、日本および世界各地の砂を使ってそ…

第1377回 富士山の魔力に取り憑かれた写真家

東京と京都のあいだの移動途中に富士山を訪れている理由は、富士山の麓に住んでいる写真家の大山行男さんを訪問して、大山さんが撮り続けている写真を確認するため。 現在、大山さんの写真集の「Creation」シリーズ三部作を制作中で、Vol.1の「生命の曼陀羅…

第1376回 鬼海弘雄さんの魂を偲ぶ

映画監督の小栗康平さん、鬼海弘雄さんと、「黙示の時代の表現〜見ることと、伝えること〜」というテーマでトークを行った。 撮影:市川 信也さん 本日、10月19日は、写真家の鬼海弘雄さんが他界されてから3年目の命日。 この写真は、5年前の秋の京都で、…

第1375回 未来のコスモロジーと、始原のコスモロジーが重なっていく。

古代に関する本を作ったり、ワークショップセミナーを行っているのは、「歴史好き」のための情報提供を意図しているわけではなく、念頭には、常に「未来」のことがある。 「未来」のことを見据えるうえで「古代」を見据える必要があると感じている。だからと…

第1374回 始原のコスモロジー

年に一冊を目標に制作している日本の古層シリーズ、昨年までに3冊作ってきて、今年は4冊目だけれど、今回は、2016年10月から始めたこのプロジェクトの集大成。 「始原のコスモロジー」というテーマに凝縮させている。 この一年の間に、ブログなどでも膨大な…

第1373回 「写す行為」と「写る現実」のあいだ。

六本木のフジフィルム に、広川泰士さんの写真展を見に行き、その後の、関係者三名のトークも聞いた。 広川さんの静かな眼差しによって写し撮られた洪水による破壊の凄まじさと、それに対抗するための巨大な堤防は、まさに聖書の中の、ノアの洪水の後のバベ…

第1372回 生成AIと人類の未来について

ソフトバンクグループの孫正義会長は、ディベート相手として毎日 GPT-4版のChat GPTと議論を重ね、そこで生まれたアイデアを特許として申請し、集中した日は1日30件、今月中には1000件を突破するのだという。Chat GPT内での議論は、会社の役員とのディベート…

第1371回 馴れについて(2)

習慣化によって感性が鈍麻して偽物に騙されやすくなることもあれば、逆に、その環境によっては、習慣化によって物事の神髄がわかるようになるかもしれない。 先祖代々の骨董屋のように、当たり前のように超一級品に囲まれて育つと、自然に、物の良し悪しがわ…

第1370回 馴れについて。

”馴れ”というのは、人間の可能性につながることかもしれないし、逆に、人間を損なう原因になるかもしれない。 今年に入って今回で10回目、6時間ほどのワークショップセミナーを、毎回二日続けていて、第3回目くらいまでは、けっこう疲れて喉も痛くなり、終…

第1369回 古代の二つの海人勢力について

これまで、古代における転換期に大きく関わっていた二つの海人勢力のことを書いてきた。 一つは、安曇氏(海部氏や、その同族の尾張氏、和邇氏を含む)と呼ばれる勢力で、もう一つは、紀氏(越智氏や平群氏も含む)と呼ばれる勢力だった。 古事記において、…

第1368回 世界観や人生観に影響を与える歴史観

ここ数日で、「日置」と「額田部」を軸にした長大な文章を書いた。 なぜ、今、あえてこんなことを書いているのかというと、私たちの足下の歴史の捉え方が大きく歪められてしまっていれば、現在を生きる私たちの世界観や人生観も歪んでしまって当然だと思うか…

第1367回 歴史の転換期における背後に隠れた力。

古代日本は、100年単位で、大きな変革を遂げている。 西暦400年頃、後の東漢氏や秦氏につながる渡来人が大挙してやってきて、この頃から古墳が超巨大になり、副葬品として、武器や馬具などが多く含まれるようになった。 西暦500年は、今来という新しい渡来人…

第1366回 王権秩序の及ぶ範囲と正確な暦の重なり

日本には無数の聖域があり、それらの聖域のあいだを線で結び、なんでもかんでもレイラインだと主張するのは、あまり意味がないことだと私も思っている。 しかし、日本の各地を旅すればよくわかることだが、古代において、冬至や夏至、春分や秋分の太陽の位置…

第1365回 海に囲まれている国の文化

日本は、海に囲まれた島国。大陸から遠すぎることもなく近すぎることもない微妙な距離感が、日本文化の固有性を育んできた。 日本人にとっては、海そのものが境界線だったから、高い城壁を築いて異民族の侵入を防ぐという発想にはならなかった。 日本人にと…

第1364回 時間が無い時代から時間に追われる時代への転換。

現代社会は、「神話なんか生きていくうえで役に立たない」と思っている人が大半だが、白川静さんが、岩波新書の『漢字』の中で、人間と神話の関係において実に深い内容のことを、簡潔に書いている。 「神話の時代には、神話が現実の根拠であり、現実の秩序を…

第1363回 始源のコスモロジー

日本は、海に囲まれた島国であり、大陸から近くもなく遠くもない絶妙な距離感が、日本という国の個性を作り上げてきました。 また、海に囲まれていながら国土の70%が山岳地帯であり、それらの山々を源泉とする河川が、日本を網の目状につないでおり、この…

第1362回 同調圧力が強すぎるのか、周りに流されやすい人が多すぎるのか。

ユーチューブで、「陰謀論」や「捏造」をテーマにすると、閲覧者が増えるらしく、そういう情報に染まってしまうと頑迷にそれを信じ込んでしまい、他の人の意見に耳を傾けなくなるという話を聞いた。 いつの時代でも、「人に流されやすい人」はいる。 ネット…

第1361回 完成への問い。未完による成就。

このたび、写真家の奥山淳志君が自分の手で作り上げて、自分の手で販売していこうとしているこの写真集は、画期的なもので、この世に写真表現というものが在って本当によかったと思える本になっている。 彼は自費出版でこの本を作って、自分で作った販売サイ…