第1361回 完成への問い。未完による成就。

このたび、写真家の奥山淳志君が自分の手で作り上げて、自分の手で販売していこうとしているこの写真集は、画期的なもので、この世に写真表現というものが在って本当によかったと思える本になっている。 彼は自費出版でこの本を作って、自分で作った販売サイ…

第1360回 スサノオの活躍と狼藉について。二律背反的な状況を乗り越えるために(1)

八雲山の須佐男の磐座=須賀神社の奥宮(島根県雲南市) 神話の中のスサノオは、人間に恩恵を与える神であると同時に、野蛮な振る舞いで周りに迷惑をかける神として描かれているが、これは、たとえば技術の発展が善と悪、禍と福という両極な状況を作り出す二…

第1359回 鳥のさえずりを「X」にすることの陰に。

ツイッターは、私自身はほとんど使っていないが、鳥のさえずりマークがxマークになって、なんだか不気味な感じがする。 ツイッターは、多くの人々に使われているわりにビジネスとしてはうまくいっていなかったのに、イーロンマスクが、なぜあれほどの大金を…

第1358回 過去に対する向き合い方は、未来に対する向き合い方と同じ。

酷暑の時は、何もせずにじっとしているのも選択肢だけれど、暑い中、ジョギングするくらいの体力と気力があれば、敢えてそうすることで汗びっしょりかくことで新陳代謝が促進されて、かえって元気になるということがある。 そう思い、一年で一番暑い時期の京…

第1357 回 神武天皇とは何か(4)

神話上、ニニギは、天孫降臨つまり外部からやってきた存在だが、神武天皇は、そうではない。 神武天皇の母親は、豊玉彦の娘の玉依姫であり、祖母は、豊玉彦の娘の豊玉姫、曾祖母は、コノハナサクヤヒメと、女系を通じて海人が三代に渡って続いているし、神武…

第1356回 神武天皇とは何か(3)

神武天皇の神話を、第26代継体天皇と重ねて考えるためには、(1)と(2)で述べたことの続きになるが、神武天皇の東征に登場する神々について、それが継体天皇とどう関わっていくのか、さらに検証する必要がある。 (2)では、亀の甲羅に乗って海路の案内…

第1355回 わたしの叔父さん

いろいろな表現活動のなかで、心から人に推薦したくなるものは、とても少なくなった昨今なのだけれど、「わたしの叔父さん」というデンマーク映画が、とてもよかった。 www.magichour.co.jp 鬼海弘雄さんが生きていたら、真っ先に伝えたい映画。 昔は、当た…

第1344回 神武天皇とは何か(2)

神武天皇とは何か(2) 神武天皇の神話を、第26代継体天皇と重ねて考えるためには、(1)で述べたこと以外に、神武天皇の東征に登場する神々が、継体天皇の時代において何に該当するのかを検討する必要がある。 まず第一に、神武天皇の東征において、最初…

第1343回 神武天皇とは何か(1)

神武天皇が、いつの時代のことなのかについて、これまで色々と複雑な読み解きがなされてきた。 しかし、そもそも日本に文字が流通するようになったのは西暦500年頃からで、それまでは口承で物事が伝えられていたわけであり、弥生時代の始まりとされる紀元前5…

第1342回 始原のコスモロジー

なぜ歴史を探究し、歴史を学ぶのか? 私は、20歳の時に海外放浪に出て、地中海世界やオリエント世界を旅している時から、「人間への信頼を取り戻すため」と思っていた。そして、それは同時に、「現代世界の問題の本質はどこにあるのか?」を考えることだった…

第1341回 飛騨の地が発する太古の地球の息吹。

約1500万年前、ユーラシア大陸の端っこの部分が南北に引き裂かれ、大陸とのあいだに内海ができて日本列島の原初の形となった。 引き裂かれた南の大地の端っこが岐阜県で、この東側に、太平洋から押しつけられた新たな大地が次々と火山活動を活発化させ、八ヶ…

第1340回 ピンホールカメラで世界と向き合う時に見えてくる古くて新しいコスモロジー。

夏至を境に、今日から1日ずつ日が短くなっていく。 私は、ピンホールカメラで写真を撮っているので、日没時間はとても気になる。 日が短くなると、取材中もゆっくりと昼食をとっていられない。だから、夏至になると、少し切ないものを感じ、冬至になると、翌…

第1339回 文字と人間の精神文化の関係

人間の精神活動は、少しずつ時間をかけて右肩上がりで成長変化を遂げてきたわけではない。 人間は、文字を使っていない時と、文字を使うようになってからでは、精神活動に大きな変化が起きる。そして、文字を使い始めた人間の精神活動には、地域差に関係なく…

第1338回 人間の意図を超えた力と、磐座。

山梨県北杜市小淵沢町に大滝神社があり、この場所は八ヶ岳南麓高原湧水群の一つ。「日本名水百選」に選ばれているが、日量22000立方メートルと豊富な水量を誇り、一年を通して水温は12度。 東京の武蔵野台地でもそうだが、井の頭公園や石神井公園、等々力渓…

第1337回  見えないものをみるために

「見えないものを見るためにカミオカンデを作った。」 これは、自らが設計を指導・監督したカミオカンデによって史上初めて太陽系外で発生したニュートリノの観測に成功し、ノーベル物理学賞を受賞した小柴 昌俊さんの言葉。 スーパーカミオカンデは、カミオ…

第1336回 ヤマタノオロチとは何か?(2)

出雲大社の隣に鎮座する命主社(いのちのぬしのやしろ)。出雲大社が築かれる前の聖域だったと考えられる。古代の磐座だと思われる巨岩の前に建てられているが、この巨岩を石材として切り出した時、下から銅戈(どうか)と硬玉製勾玉が発見された。ともに古…

第1335回 ヤマタノオロチとは何か?(1)

八岐大蛇について(1) 古事記や日本書紀に描かれている「スサノオの八岐大蛇退治」の物語は、誰でも知っているが、いったい何を意味するのか、江戸時代の国学者も含めて様々な解釈を試みているが、これが正解だと明確に言いきれる解答は見当たらない。 こ…

第1334回 飛騨に残る日本の歴史文化の古層

古代の天文観測所とも言われる飛騨の金山巨石群 飛騨 背後の山がピラミッドなどとも言われる日輪宮。 飛騨地方には、縄文遺跡が多く残り、縄文時代の祭祀道具と考えられる石棒に関しては日本で最も数多く見つかっているが、飛騨人の顔は沖縄や東北の人たちの…

第1333回 出雲の国譲りと諏訪

出雲の国譲りのことを考えるうえで、諏訪のことも考えておかなければならない。 諏訪大社というのは、諏訪湖の南に鎮座する前宮と上宮、北に鎮座する下社の春宮と秋宮の4社で構成されるという得意な形をとっており、これが、全国に25000社存在する諏訪神社…

第1332回 出雲の国譲りとは何か? (4)

八雲山のスサノオの磐座。八雲山の西麓に鎮座する須賀神社の奥宮。 島根の出雲地方は、大きく分けて三つの領域に分かれる。 一つは、出雲の西側、斐伊川の流域で、もう一つの地域が、鳥取との県境の大山の周辺、日野川の流域。 これらの地域のことは、(1)…

第1331回 過酷極まりないサハラに生きる自由。

写真家の野町和嘉さんが激賞していた、ハッサン水谷さんの写真集「サハラ蒼氓」を拝見した。 サハラの写真と言えば、野町さんの写真を思い浮かべるが、その野町さんが高く評価するサハラ世界の写真はどんなものだろうと期待していたが、野町さんが言っていた…

第1330回 出雲の国譲りとは何なのか?(3)

因幡の白兎伝承のある白兎海岸の淤岐ノ島。 神話の中で描かれる「出雲」を、縄文に遡る日本の先住系の人々の文化と捉え、天孫降臨という新参者に「国譲り」という形で実権が奪われたと考えている人がいるが、それは違っている。 長野の諏訪大社は、今日まで…

第1329回 出雲の国譲りとは何なのか? (2)

荒神谷遺跡 「出雲」は、3つのエリアに分かれる。中海の東の米子市から大山周辺と、中海と穴道湖のあいだの松江周辺、そして穴道湖の西で、出雲大社が鎮座する地域。 出雲大社は、近畿で律令体制を築きつつある人たちによって、何かしらのシンボル的な意味…

第1328回 出雲の国譲りとは何なのか?

出雲大社の隣に、摂社の命主社(いのちのぬしのやしろ)がある。巨岩の前に建てられており、古代の磐座が聖域だったと考えられる。社の前には、推定樹齢1000年といわれるムク(椋)の巨木がある。1665年、命主社の裏の大石を石材として切り出したところ、下…

第1327回 大事なことだから隠す必要がある。

牽牛子塚古墳(斉明天皇陵) 歴史好きの人のなかで、藤原氏の陰謀ということが、よく言われる。古事記や日本書紀なども、藤原不比等の陰謀で藤原氏に都合が良く書き換えられ、都合の悪いことは隠されたと。 梅原猛氏などは、古事記編纂において口承を伝える…

第1326回 京都の桂川流域に秘められた歴史の真相。

京都は日本の歴史文化の宝庫とされていますが、観光地の大半は豊臣秀吉以降の時代に作られたものが多く、多くの人が古都の街並みだと勘違いしている祇園は明治維新以降のものです。 京都のなかで平安京遷都の1200年前より古い聖域は、京都の西側の桂川沿いに…

第1325回 鬼伝承の地と、鉱物資源と、交通の要衝。

岐阜県瑞浪市の鬼岩。ここは木曽川支流の可児川の源流に近く、巨岩群の中を、清冽な水が勢いよく流れている。 この地は日本有数のラジウム温泉の場所で、すぐ近くに、日本最大のウラン鉱脈がある。 鬼岩から5kmのところには、高レベル放射性廃棄物の処分の…

第1324回 石垣づくりの奥義と、未来の可能性。

岐阜県中津川の苗木城あたりは、日本三大ペグマタイトの地、つまり宝石の産地。 ペグマタイトは、主に花崗岩地帯に生じるが、中津川は、花崗岩の奇岩がゴロゴロしている。 巨石とか大樹は、古くから信仰の対象だが、神籬(ひもろぎ)など神を迎えるための依…

第1323回 写真をわかるとは?

写真表現に深く関わるところで仕事をしてきた一人として、写真について評論や解説をしている、とりあえずプロの写真家や言論関係の人の言葉で、「写真のこと、まったくわかっていない」と嘆きたくなる言葉がある。 それは、写真を語る時に、たとえばモノクロ…

第1322回  CHAT GPTの先の未来

CHAT GPTを子供に使わせるべきかどうか? とか、大学生が、これを使って論文を書くようになってしまうのではないか、とか、どうでもいいような議論がなされている。 仮に大学生が、CHAT GPTで論文を書いたとしても、問題になってくるのは、それを評価する側…