人生

第1202回 懐かしさに宿る真理

現在、東京の半蔵門ミュージアムで、井津建郎さんの写真展が開かれている。 https://www.hanzomonmuseum.jp/exhibits/special.html この美術館は初めて訪れたのだが、東京の真ん中にこんなに素晴らしい場所があったのかと、正直、驚いた。特別展の展示スペー…

第1201回 真っ当な奇人

この記事によると、鬼海さんは29歳の時、「撮る人間と撮られる人間の関係をもう一度考え直したい」と言っていて、50年近くも前にそんなことを真剣に考えていたんだと、今更ながら驚かされる。 写真が自己主張の手軽な手段となり、自己承認欲や虚栄心のために…

第1196回 熱のない時代を生きる自分の寄る辺

作家の梨木香歩さんが、新著のエッセイ集「ここに物語が」を送ってくださった。 www.shinchosha.co.jp ガルシア・マルケスをはじめ、梨木さんのこれまでの読書体験をもとに、どんな本をどんなふうに読んできたかが綴られている。 この本のなかに、15年くらい…

第1195回 光が備える波動の性質と、時を超える写真術。

石牟礼道子さんの才能を発見し、世に送り出し、支え続けた渡辺京二さんが、「逝きし世の面影」という素晴らしい本を残している。明治維新の頃、日本にやってきた外国人が書き残した日本人の生活の美しさや能力の素晴らしさをまとめたものだ。 日本人が無自覚…

第1192回 オリックスの山本投手のトレーニング方法と、いにしえの日本

日本で最も人気スポーツである野球で、最高峰の投手でアメリカ球界も注目しているオリックスの山本投手がこんなことを言っている。 「昔の女の人が米俵を担いでいる写真。担げるの?って思うじゃないですか。コツを知っているから持って運べる。人間にはそれ…

第1190回 写真家の良心と、いのちの在り処。

2018年秋、鬼海さんと小栗康平さんと一緒に亀岡や京都の紅葉を観て歩いた。 昨日、10月19日で、鬼海弘雄さんが亡くなって1年が経つ。 京都の家の玄関には、鬼海さんから頂いたペルソナの写真2枚が飾られており、うちに来る人のなかには、びっくりして、「…

第1162回 ピンホール写真と、祈り。

高性能のデジタルカメラは、撮影者が狙うような絵を作り出すために非常に有用なツールとなっている。 それは、撮影者の満足度を高めるために適しているかもしれないが、そのアウトプットが、自分と世界のあいだの作法として相応しいものかどうかは別問題だ。…

第1149回 村上春樹氏の SNSに対する言葉について

村上春樹氏が、 SNSについて言及した言葉が、話題になっているようだ。 「大体において文章があまり上等じゃないですよね。いい文章を読んでいい音楽を聴くってことは、人生にとってものすごく大事なことなんです。だから、逆の言い方をすれば、まずい音楽、…

第1146回 新年の誓い

去年の1月3日、年のはじめに、年内にこれだけはやり遂げることを決めようと考えていて、年末に鬼海弘雄さんを見舞いに広尾の赤十字病院に行った時のことを、ふと思い出した。 その時、ピンホールカメラで撮っている写真を鬼海さんに見せたところ、「本にしろ…

第1131回 無念を承知の人生。

池袋で、鬼海弘雄さんの供養のための飲み会が終わった。鬼海さんの本当の供養は、という話となった。鬼海さんが、あちらの世界で、もっとも喜ぶであろうことは? 人は、この世を去ることで、良い意味で悪い意味でも。その存在が、永遠となる。人は亡くなって…

第1130回 魂の交流と、天命

お使い帰りの兄妹 撮影:鬼海弘雄 生前、私を同志と言ってくれた鬼海さんは、2020年10月19日、75歳で逝ってしまった。 そして、若造の私にとって恩師だった日野啓三さんは、2002年10月14日、73歳で他界された。鬼海さんも日野さんも、ほ…

第1129回 撮ることの秘儀  鬼海弘雄さんの写真について

鬼海弘雄さんの写真で素晴らしいものはたくさんある。 その中で、例えば、この一枚の写真には、鬼海さんの人柄や、哲学、そして写真の凄さ、写真表現だからこそ可能なことが、ぎゅっと詰まっている。 これは、鬼海さんが、トルコのアナトリア地方を旅してい…

第1128回 追悼 鬼海弘雄さん(2)

Impact hub Kyoto で行った鼎談「黙示の時代の表現〜見ることと、伝えること〜」(右から、鬼海弘雄さん、小栗康平さん、佐伯剛) 撮影:市川 信也さん 2018年11月11日。とっても楽しかった。この後、小栗さんと鬼海さんで、何日、我が家に泊まって…

第1127回 追悼 鬼海弘雄さん(1)

10月19日、鬼海弘雄さんが、2年あまりのリンパ腫との闘病の末、亡くなった。 春頃までは、電話がかかってくれば、次の本作りのことや、良くなったらあと一回、トルコに取材に行きたいなあとか、そういう前向きな話ばかりだった。きっと、自分を鼓舞して…

第1114回  美意識と人生の選択。

京都郊外、日本一の高さを誇る花脊の三本杉。現存する樹木としては国内最高となる62.3メートル(右端の杉)、残りの二本も、国内第2位と5位。 古樹と巨岩と水の流れ。悠久の時間を感じさせるものと、絶えず流転していくもの。古代から日本人の心に受け継が…

第1113回 自然と人間のあいだ

1日の降雨量が、1ヶ月の平均総雨量と等しいとか、その2倍、3倍であるという報道が増えた。 梅雨の7月は、例年でも降雨量が多いのに、以前なら1ヶ月かけて降り積もった雨量が、たった1日で降ってしまうという状況は、いったい何を物語っているのか。 …

第1111回 わかりやすい自分事と、わかりにくい他人事で切り分けるのではなく。

近年、テレビメディアやSNSの影響からなのか、人々は、わかるかわからないか、共感できるかできないか、という単純な線を引きたがる傾向が強い。 しかし、わかることや簡単に共感できることというのは、自分の経験の中で処理できることにすぎず、重要なこと…

第1110回 現代人にも受け継がれている縄文の世界観や生命観。

山添村 縄文時代早期の遺物が多く出土した大川遺跡の目の前の名張川。 最近、山の中に分け入って、激しく急流が流れるところを訪れることが多いのだが、そういう場所の近くに見晴らしの良い高台があり、そこに縄文人が住んでいたと知ると、縄文の人たちの世…

 第1109回 「命は何よりも大事」と言う時のいのちとは何か?

今回のコロナウイルス騒動で、強く感じた違和感。「命は何よりも大事」という時の”命”とは一体何を指しているのかということ。 生命尊重という言葉を使っていると、現代社会においては、まず誰からも非難されることはなく、腹の中で何を考えていようが、良心…

第1108回 未来の土壌となる記憶

東京が日本の中心になって、日本の歴史が見えにくくなってしまったことは間違いないだろう。 しかし、400年前まで東京は辺境の地だったわけで、時代環境が変われば、辺境だった地域が中心になる可能性もある。 その場合、インフラの変化は大きな意味を持…

第1094回 ウィルス禍のなか、健やかな未来のための総合的判断とは。

どれか一つの理由でと決めつけることはできないが、新型コロナウィルスの禍が広がり始めて4ヶ月近くなり、地域ごとの違いがはっきりとしてきた。 専門家の先生は、このウィルスは、人種や地域性などに関係なく全人類の普遍的な脅威であると言っておられたが…

第1090回 いのちが私たちの中にあるのではなく、私たちが、いのちの中にある。

今日はお天気がよくて、家の前の河川敷に、親子連れが、わりとたくさん来ていて、子供の頃によくやっていた川に向かった石投げや、虫取をしていて、いいなあと思って眺めていた。 忘れてならないことは、いのちが私たちの中にあるのではなく、私たちが、いの…

第1083回 もののあはれという、日本人の運命の受け止め方

コロナウィルスで、かつて経験したことのない重い空気が世界を覆っている。 私は、2015年10月に発行した風の旅人の第50号で、次号の告知として、「もののあはれ」を発表したものの、その底深いテーマの前に途方にくれ、そのままになってしまっていた。 日本…

第1081回 歴史的転換期の中のコロナウィルス騒動

現在起きているコロナウィルス騒動で、専門家が、もしアメリカで何も対策を講じなければ、死亡率が爆発し約1,000万人が死亡するとシミュレーションをしている。アメリカ人の約75%が感染し、4%が死亡した場合、それは1,000万人の死亡、つまり第二次世界大戦…

第1079回  無為自然

困難極まりない状況に直面している時、その困難に翻弄されないように、これは試練であり自分は天に試されているのだと、自分に言い聞かせる時がある。 そして、天に試されているならば、天に対する応えは、どういう答えが正解なのかと考える。 もちろん、何…

第1072回  風土と人間

大阪のphoto gallery Saiで、写真家の小池英文さんが、「瀬戸内家族」というテーマで撮り続けたきた写真の展覧会を行っています。 小池さんの写真は、風の旅人でも何度か紹介させていただきましたが、この写真展を機会に、私と、小池さんに、ギャラリーの主…

第1065回 日本の古層(13) 白川郷の伝統的家屋ー自然に対する敬虔さが反映された形

雨の白川郷へ。台風が近づいていたので観光客は少ないと思っていたけれど、予想に反して、観光バスが何台も乗り付け、外国人で溢れていた。しかし、ピンホールカメラで長時間露光すると、動いている人は写らないので、昔のような静けさが念写される。 白川郷…

第1063回 時間の流れ

http://www.bitters.co.jp/satantango/ タルベーラ監督の『サタンタンゴ』について、さらに重要なポイントについて、考えてみたい。 7時間を超えるこの映画を構成している僅か150カットの長回しのシーンの一つひとつ。5分を超える長回しの撮影のあいだ、…

第1060回 逆境と生命力

人の苦悩には二つのタイプがあって、一つは、自分次第というもの。そしてもう一つは、自分の意思や努力ではどうにもならないもの。自分自身の病は、とても辛いことだが、その辛さを、どう受け止めて耐えるかは自分次第。しかし、愛する者の病は、祈ることで…

第1041回 病老死を遠ざけたいという、現代の屈折した病

https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201902/0012086861.shtml 2019年2月22日の神戸新聞の記事によると、望ましい最期の場所を余命の短い患者らに提供する施設「看取(みと)りの家」が神戸市須磨区で計画されていることに対し、近隣住民らが反対運動…