写真

第1203回 生命の曼荼羅

富士山の写真で知られている大山行男さんの新しい写真集「The Creation 生命の曼荼羅 vol.1」 。 これから印刷をする前に、先行予約を行い、部数を決定したいと思います。 このたびの写真集は、富士山だけでなく、富士山周辺の生命の万華鏡世界を表したもの…

第1202回 懐かしさに宿る真理

現在、東京の半蔵門ミュージアムで、井津建郎さんの写真展が開かれている。 https://www.hanzomonmuseum.jp/exhibits/special.html この美術館は初めて訪れたのだが、東京の真ん中にこんなに素晴らしい場所があったのかと、正直、驚いた。特別展の展示スペー…

第1201回 真っ当な奇人

この記事によると、鬼海さんは29歳の時、「撮る人間と撮られる人間の関係をもう一度考え直したい」と言っていて、50年近くも前にそんなことを真剣に考えていたんだと、今更ながら驚かされる。 写真が自己主張の手軽な手段となり、自己承認欲や虚栄心のために…

第1200回 伊豆半島に残る縄文時代の海上ネットワーク

(伊古奈比咩命神社。手前が、枯れて1300年の「白龍のビャクシン」。) 熱海から伊豆の大室山から伊豆半島の南端、下田の伊古奈比咩命神社(白浜神社)を訪れた。 伊古奈比咩命神社は、富士山と、古代、神々が集まるところとされた神津島を結ぶライン上に位…

第1199回 世界の現実を自分ごとに引き寄せる写真

このたび、日本写真家協会が創設した笹本恒子写真賞の審査員をつとめることになり、渋谷敦志さんの写真活動が賞にふさわしいと思い、選ばせていただいた。 渋谷さんの写真活動はスケールが大きい。彼は、20歳になる前の1993年ごろから今日まで27年ものあいだ…

第1195回 光が備える波動の性質と、時を超える写真術。

石牟礼道子さんの才能を発見し、世に送り出し、支え続けた渡辺京二さんが、「逝きし世の面影」という素晴らしい本を残している。明治維新の頃、日本にやってきた外国人が書き残した日本人の生活の美しさや能力の素晴らしさをまとめたものだ。 日本人が無自覚…

第1194回 映画「くじらびと」。11月7日、石川梵監督とトークを行います。

映画「くじらびと」。この奇跡の映画、革命的な映画の大阪での上映で、石川梵監督と、トークを行うことになりました。 大阪復活上映(第七芸術劇場) (11月7日(日)、14:10の回上映後 1時間のスペシャルトークイベント) 登壇者:石川 梵 監督、佐伯 剛(…

第1190回 写真家の良心と、いのちの在り処。

2018年秋、鬼海さんと小栗康平さんと一緒に亀岡や京都の紅葉を観て歩いた。 昨日、10月19日で、鬼海弘雄さんが亡くなって1年が経つ。 京都の家の玄関には、鬼海さんから頂いたペルソナの写真2枚が飾られており、うちに来る人のなかには、びっくりして、「…

第1188回 縄文の水上ネットワークと、竹野の巫女?

玄武洞(兵庫県豊岡市) 兵庫県豊岡市には火山活動の痕跡が生々しく残るが、柱状節理で有名な玄武洞は、地磁気の逆転現象発見の場所。 1929年、松山基範は、ここの玄武岩の持つ磁気が現在の地磁気と反対の向きを指していることを発見し、かつて地球の磁場が…

第1187回 「MINAMATA」と「くじらびと」、事実に対する誠実さの違い。

https://lastwhaler.com/bon-ishikawa/?fbclid=IwAR0SB70MpHebmRJByfpHiYdxelCDGQUCUA0cNRw_atUJEzi0os5dT_dc0qk 「これまで海の上の人間の物語を撮ってきた。しかし、海の下のもうひとつの物語があることに気づいた」 石川梵監督の映画「くじらびと」の誕生…

第1186回 たとえフィクションであっても、事実を伝える際のモラルは必要だ。

「Let truth be the prejudice」真実を偏見(こだわり)にしようというユージンスミスの有名な言葉の中のTruth(真実)は、神様の目ではなく、人間の目からの真実である。 ユージン・スミスは言っている。人間というのは、純粋に客観的であることはできない…

第1185回 重層性や複合性の視点を失わずに表現することの大切さ。

映画MINAMATAは、非常にわかりやすいサンプルなので、しつこく言及してきたが、現在の表現の一番の問題は、重層性や複合性の視点が欠けているものが多く、その方が、人に受けやすいということ。だから、単純な構造にしてわかりやすくして人心を誘導する手口…

第1184回  水俣やユージン・スミスのリアルと向き合うことは、近代の問題と向き合うこと。

私が映画「MINAMATA」のことについて書くことに対して、「佐伯さんは、一般大衆に期待しすぎ」と、なんとも不思議なコメントをくれる人がいる。 一般大衆の定義がよくわからないが、期待しても、何にも変わらないよ、という程度の意味だろうか? 私がしつこ…

第1182回 桑原史成さんの水俣の写真から伝わってくる、正義よりも本当のことを伝える思い。

桑原史成さんの水俣に関する写真展が開かれている。 http://www.fujiwara-shoten.co.jp/whatsnew/9-15%EF%BD%9E10-16-%E6%A1%91%E5%8E%9F%E5%8F%B2%E6%88%90%E5%86%99%E7%9C%9F%E5%B1%95%E3%80%8Cminamata%E3%80%8D%E9%96%8B%E5%82%AC%EF%BC%81/ 大勢の人に…

第1180回 映画MINAMATAー正義と真理の隔たり

ここ数日、映画MINAMATAについて、あまりにも無防備に絶賛する人が多すぎるので、私なりに感じる問題点を書いてきたけれど、これを最後とする。 この映画は、「事実に基づくフィクションである」という中途半端な逃げで、悪の集団役としてチッソ株式会社は具…

第1179回 映画「MINAMATA」と、当事者意識の問題。

ユージン・スミスを主人公にした「MINAMATA」の映画に対して、熊本県と水俣市の判断は違っていた。この映画の水俣での上映会において熊本県は後援したが、水俣市は後援を拒否した。熊本県の方が水俣市よりも懐が大きいなどと思う人は、水俣のことについて、…

第1178回 映画「MINAMATA」について、ユージン・スミスは、どう思うだろう?

「私は、男は泣かないということを承知しているが、私は泣いた。同室のものから顔をそむけ、涙と嗚咽を抑えるのに精一杯だった。私を深く感動させる写真、私の人生を変えてしまう写真は数少ない。森永純の写真はその二つを併せ持っていた。」 ユージン・スミ…

第1177回 「MINAMATA」なのか、「OUR MINAMATA DISEASE」なのか。

映画「MINAMATA」の製作に関わり、主演でもあるジョニーデップが、2020年ベルリン映画祭公式記者会見で、こう述べている。 「ユージンスミスとアイリーンスミスの水俣での記念碑的な仕事と、彼らの献身に! 」 MINAMATAという映画は、まず、このジョニーデッ…

第1176回  水俣とMINAMATAの違い

ジョニー・デップが写真家のユージン・スミスを演じる映画、「MINAMATA」を観てきた。 これは「水俣」の映画とは言えないので、「ユージンスミスと水俣」というタイトルくらいが、ちょうどいい。 ユージンスミスの写真については昨日書いたとおりなのだけれ…

第1175回 「MINAMATA」のユージンスミスと、森永純

ジョニーデップが製作・主演の「 MINAMATA」が、京都でも観られる。 この時代に、改めて水俣のことに注目がいくことは、大事なことかもしれない。 しかし、私は、風の旅人の誌面で、ユージンスミスの写真は、日立関係のもの(高度経済成長下の日本人)を編集…

第1168回 目の焦点と、心の焦点。

富士ヶ嶺から望む富士山 富士山と、富士山周辺の聖域をピンホールカメラで撮ると、確かに、その霊気が針穴の中に忍び込んでくるような気がしないでもない。 最近、私のピンホール写真を見た写真家の水越武さんから写真の焦点について問いを投げかけられたが…

第1166回 見えるものと見えないものの間

足摺岬 竜宮神社 日本は、アメリカや中国などに比べると小さな島国ですが、北から南まで長い国で、その自然や文化の多様性は、無限とも言えるほどの豊かさがあります。 現在、私が取り組んでいる「 Sacred world 日本の古層」のプロジェクトで、ピンホール写…

第1165回 偶然と必然は糾える縄のごとし

事任八幡宮 (静岡県掛川市) 偶然と必然は、糾える縄のごとしであり、偶然だったことも、後から思えば必然だったのかと思わされることが多い。 昨年の冬、京都から東京に移動する時、出発の前日までは長野経由を考えていたが、大雪で道路の状況に不安があっ…

第1164回 現場を訪れることで立ち上がってくる新たな問い

三角形の北の頂点が、京丹後市網野町の網野神社、西の頂点が兵庫県宍粟市の伊和神社、東の頂点が、亀岡市の魔気神社である。それぞれのあいだは、76kmで正三角形である。魔気神社と、伊和神社は、珍しく本殿が北向きの神社であり、京丹後の網野神社は、浦島…

第1163回 古代から現在、そして未来への連続性

昨年の夏、自分の故郷の明石に長く滞在したこともあり、明石から播磨にかけての地域をじっくりと取材していた。 私は、18歳まで明石で育った。明石原人や明石象の発見地ということもあり、その現場で考古学のママゴトをしていたが、明石周辺が歴史的に重要…

第1162回 ピンホール写真と、祈り。

高性能のデジタルカメラは、撮影者が狙うような絵を作り出すために非常に有用なツールとなっている。 それは、撮影者の満足度を高めるために適しているかもしれないが、そのアウトプットが、自分と世界のあいだの作法として相応しいものかどうかは別問題だ。…

第1161回 有為転変の出来事そのものではなく、この世を司る理。

Sacred world 日本の古層 vo.2の最後の14ページは、ピンホール写真と、上嶋鬼貫の俳句のコラボレーションになっている。 上嶋鬼貫は、芭蕉と同じ時代の俳人で、東の芭蕉、西の鬼貫と高く評価されていたものの、芭蕉ほど知名度が高くない。しかし、リルケなど…

第1160回 風の旅人と、Sacred worldのつながり。

日本の古層を探りはじめると、とめどなく謎が続いていく。 何か一つのことがわかっても、それが新たな疑問のきっかけとなる。しかし、その謎解きに精力を傾けて集中していると、いろいろな関連事項が自分の中に蓄積していき、つながりができてくる。 残念な…

第1159回 ピンホールの眼と、日本の古層

Sacred world 日本の古層」に掲載されている写真は、全てピンホールカメラで映したもの。 一般的な写真撮影は、被写体を探して狙い撃つ性質があり、「撮影する」を英語にすると、shootとなる。カメラのシャッターは拳銃の引き金に等しい。 しかし、私たちは…

第1157回 Sacred world 日本の古層Vol.2の完成

新型コロナウィルスによって、この1年以上ものあいだ、世界中の人々が、これまで経験したことのない時間の中を生きています。 天災や疫病は、人間の「理」を超えたものであり、古代から人間は、こうした人間の「理」を超えた試練に直面するたびに、世界観や…