罪と罰

 ここ数日のニュースで、どうしても納得いかないことがある。


「 肝炎リスト放置 現職3幹部、厳重注意 歴代幹部は不問」2007年12月04日

 血液製剤C型肝炎に感染した疑いがある患者418人のリストが5年間放置された問題で、厚生労働省は3日、当初は「ない」とした実名入り資料が見つかったことについて、現職幹部3人を文書による厳重注意処分にした。減給などの懲戒処分でなく、注意処分でも2番目に軽い。リストを放置した歴代幹部の責任も不問にしており、「身内に甘い」との批判が出そうだ。

 「処分」という言葉を使っているけれど、ようするに、口頭ではなく文章で注意をしたという程度のことにすぎない反省のさせ方なのだが、これを伝えるAsahiニュースは、「身内に甘いとの批判が出そうだ」などと日和見的に、のんびりと書いているが、まずは自分が徹底的に批判してみろよ、と言いたい。

 この役人の罪と罰に比べて、関東学院大学ラグビー部で、部員が大麻を吸ったことに対する攻撃は、いったい何だというのだろう。


関東学院大といえば、早大とともに大学ラグビーの頂点に君臨してきた強豪である。みなが目標とするチームであり、OBも含めて日本ラグビー界の中核ともなっている存在なのだ。なのに、その選手たちが日常的に違法行為に関与していた。常に注目されるチームの一員なのだという自覚も、後輩たちのあこがれとなっている誇りも、ともにかけらさえなかったと言わねばならない。これに限らず、大学スポーツ界の不祥事は後を絶たない。女性に対する暴行や略取未遂、またチームぐるみの不正乗車などもあった。それも人気競技の有力校が多い。いまの大学スポーツは、華やかさの一方に根深い負の体質を抱えている。

 まず指摘すべきは、プロ的になり過ぎているという側面ではないか。大学の名を上げるのに、また一般学生を引きつけるのにもスポーツは効果的な手段のひとつだ。そこで人気競技の強化が過熱し、選手獲得合戦も激化する。勝利至上の意識も強くなっていく。そんな中では、学生としての自覚が乏しく、プロ気分でいる選手も少なくあるまい。

 こうして、アマチュアのよさも、学生スポーツとしての本来の意義も薄れる一方となる。競技だけやっていればいい、勝ちさえすればいいという考え方が抵抗なくまかり通るようにもなる。そのゆがみが不祥事続出の根底にあるのは否定できないところだろう。そしてこれは、高校野球の特待生問題にも共通することに違いない。

 学生スポーツ本来の姿と、そこからの逸脱に、関係者はあらためて思いをいたすべきだ。有力選手や人気選手をかき集めて勝つのが目的のすべてではないはずだし、それだけでは学内外の共感も得られない。そこから生まれるゆがみが、今回のように全体を汚すこともある。競技と教育の場との融合は、本来どうあるべきなのか。名門チームで起きた愚行は、すべての大学スポーツ人に重い問いを突きつけている。」東京新聞 社説

 結果的に、チームは、連帯責任で公式戦などに出場できないだけでなく、監督は辞任、廃部の危機にまで直面している。

 直接、当事者でない人たちの、これまでの努力も全て、投げ出すことを要求されている。

 大麻は明確な違法であり、厚生労働省のやったことは違法とは判断できない、ということなのかもしれないけれど、他者に直接的な被害を与えているのは、圧倒的に厚生省の方が大きいはずだ。

 大麻によって、誰がどれだけ迷惑を蒙ったというのだ。ましてや、偉そうな社説を書いている人間は、その文章を読む限り、この件について何かしらの痛みを感じているとはまったく感じ取れない。きっと心のなかでは、自分にとって何の関係もない問題だと思っているだろう。

 この件について痛みを感じるとすれば、誰に対してか?

 それは、これまで一生懸命に練習してきたにもかかわらず、巻き添えを食った若者たちだろう。そういう人たちへの配慮など微塵もなく、大学スポーツで不祥事続出!!と、一括りにして論じている。大学スポーツに関わっている人間の何%の人間が、こうした不祥事に関わっているというのだ。あんたたちメディアの方が、よほど不祥事続出!!だろう。

 社員のうち一人でも二人でも痴漢をして逮捕された時、連帯責任を取る覚悟でもあるのか。自分にはまったくその覚悟も責任意識もないくせに、弱みを持った相手を徹底的に攻撃する。そのくせ、厚生労働省に対しては、及び腰だ。

 大学ラグビー部の方は、メディアがあれこれ攻撃しなくても、対外試合停止、廃部の危機など、相当ダメージを与えられている。この上、いったい何のために攻撃を加える必要があるのか。

 しかし、厚生労働省の方は、どうなのだ。「文章による注意」などでいいのか。

 もしそれでよいなら、関東学院大ラグビー部も、同じように、当事者だけ文章による注意をすればいいじゃないか。

 

 大学スポーツや高校野球などを聖域のように美化して、そこから利益をとるのがメディアだ。そのイメージが傷つくことを一番恐れているのが、メディアなのだろう。

 まったく狡く汚い大人の駆け引きだ。

 敢えて言うけれど、たかが一部の若者の好奇心で吸った大麻だ。個人の問題だ。個人の問題は、個人で片を付ければいい。

 それに比べて、厚生労働省のリスト放置は、税金から給与をもらって、仕事として行っている範疇の出来事だ。

 自らの意志とリスクで何の報酬もなく行っているスポーツの範疇で特定の誰かに迷惑をかけたわけではない行為よりも、報酬を得る仕事を通して他者に多大な犠牲を強いた行為の方が、遙かに罪が重いはずだ。その罪に対して「文章による注意」などと子供じみたことをやっている大人と、自分たちが損をしないように計算をして記事を書く大人の小狡さと汚さの方が、若者の大麻などと比べようがないほど、この国の未来を薄汚いものにしている。